新しい土地で始まる、新しい物語。満を持して発売されたウイスキーは、圧巻のクオリティーを備えていた。シアトル生まれの「ウエストランド」で、アメリカ最高のシングルモルトを体験しよう。

文:WMJ

 

アメリカンシングルモルトウイスキー。何と斬新な響きだろう。シングルモルトのファンも、アメリカンウイスキーのファンも、この真新しいジャンルについてはまだ多くを知らないはずだ。

だが先駆者であるウエストランド蒸溜所は、ここまで着々と準備を進めてきた。2010年にアメリカ西海岸北部のシアトルで開業し、すぐシングルモルトに生産品目を絞る。同じシアトル市内のソードー地区に移転した2012年頃から、スコットランドの著名なウイスキー関係者たちが注目しはじめるようになった。ジャンルの新奇性ではなく、モルトウイスキーとしての純粋な品質に驚いたのである。

マスターディスティラーのマット・ホフマンが、創業の動機を振り返る。

「ケンタッキー州とワシントン州の距離は約2,000マイル。これはスコットランドからイスタンブールまでの距離に相当します。同じアメリカでも、それだけ風土や文化が異なるということ。大麦栽培が盛んなワシントン州で、シングルモルトウイスキーをつくることに迷いはありませんでした」

大麦の風味にこだわり抜くため、焙煎を変えて5種類のモルトを用意する。バラエティ豊かなモルトの風味を絶妙にブレンドすることで、スコッチでも体験したことのない深みが生まれた。

エディンバラのヘリオットワット大学で蒸溜学を修めたマットは、モルトウイスキーの本場であるスコットランドの伝統に敬意を抱いている。設備や工程も、標準的なモルトウイスキーの製造法に倣った。だがその反面、スコッチウイスキーを真似るつもりは毛頭ない。選んだのは、徹底して現地の風土と文化を表現する路線だった。

「私たちの土地が生み出したユニーク味を、偽りなく表現する。これこそがアメリカンシングルモルトをつくる意義に他なりません。テロワールに忠実であり、ごまかしがないこと。ここには特別な風味を持つ大麦品種があり、ユニークな樽材も調達できます」

ヨーロッパから北米に移住した人々は、故郷から持ってきた大麦がうまく育たないのでライ麦やコーンの栽培に転じた。でも現在のアメリカには、ワシントン州のような世界屈指の大麦栽培地帯だってある。グローバルコマーシャルディレクターのクリス・リースベックは言った。

「もしアメリカへの移住が西海岸から始まっていたら、アメリカンウイスキーの主流はシングルモルトウイスキーだったと思いますよ」

現在は全米でも数多くの蒸溜所がシングルモルトウイスキーをつくっているが、アメリカンシングルモルトというジャンルを確立すべく、スコットランドのSWAのような組織を立ち上げるためにウエストランドが筆頭となって活動している。140軒以上の蒸留所が参加する大きなムーブメントとなっているようだ。
 

モルトのフレーバーにこだわった新しい正統

 
マット・ホフマンいわく、モルトウイスキーの風味は3つの要素で決まる。1つめは大麦モルト。2つめは酵母と発酵。3つめが樽熟成だ。ウエストランドでは、このバランスを何よりも重視する。

「スコットランドでは、風味の80%が樽由来だと主張する蒸溜所もあります。でもそれはひとつの選択に過ぎません。ウエストランドでは、樽由来の風味は全体の45~50%程度が適当だと考えています。ビールメーカーが大麦に注目し、ワインメーカーがブドウに注目するように、まずは大麦の風味に徹底してこだわりたいのです」

大胆なチャレンジャーであり、品質重視の原則を曲げない頑固者でもある。マット・ホフマン率いるウエストランドは、アメリカンシングルモルトウイスキーという新ジャンルを力強く牽引していくだろう。

このたびウエストランドが発売した3種類のウイスキーには、通常のペールモルトに加え、ローストした4種類のモルトを使用している。ペールモルト、ミュンヘンモルト、エクストラ・スペシャルモルト、ブラウンモルト、ペールチョコレートモルトの5種類を組み合わせ、彼ら独自のフレーバーを生み出す「モルトビル(バーボンのレシピはマッシュビルと呼ばれるため、モルトだけを使用するウエストランドらしい呼び方だ)」を作り上げている。このレシピはすべてのウイスキーのベースとなっている。

「ワシントン州はクラフトビールのブームが始まった場所なので、大麦の種類が多彩です。1万5千種もあるのに、ウイスキーにはほんの数種類しか使用されていません。だから潜在的な可能性は膨大なんですよ」

使用する酵母は、フレーバーで選んだビール用酵母のベルジャン・セゾン。完成時の風味のバランスにも優れている。大麦も酵母も、アルコール収率ではなく風味を重視している点がハードコアと評される所以だ。かといってスタウト用の酵母で個性を際立たせたりはしない。あくまでバランス至上主義なのである。

熟成はアメリカンオークの新樽を主軸に置く。だからオーク材の品質は極めて重要だ。彼らが使用するオークは、一般のバーボンバレル用オークよりもゆっくりと育つ晩成性のものだ。ウエストランドでは伐採後に18~24ヶ月ほど自然乾燥させることで、タンニンの影響を和らげている。ウイスキー業界では珍しいが、ワインやブランデーの樽では標準的な方法だという。ワシントン州は全米でカリフォルニア州に次ぐワインの生産地でもある。ここにも、テロワールの概念が生きている。

樽香が圧倒しすぎないよう、気温を含めて繊細な熟成環境を維持する。小樽で熟成を早めるような小細工はせず、モルトの味わいに樽香が統合される最高のタイミングを待つ。熟成期間は平均で4~5年ほどだ。スコッチに比べると短めだが、そんな先入観は味わった瞬間に覆されることになる。
 

3種類のシングルモルトをテイスティング

 
さて待望のテイスティングだ。まずは「アメリカン・オーク」から。マットいわく、もっとも革新的で、もっとも重要な製品がこれである。

「アメリカンシングルモルトの可能性を、もっとも純粋に提示したウイスキー。最高に革新的な商品を、最前面に出すのがウエストランドの方針です」

香りはレモンやオレンジ風味のカスタードで、チョコレートのような印象もある。口に含むと、芳醇なフルーツ。アーモンド、バナナ、クリームなどの風味も華やかに広がる。5種類の焙煎をミックスしたモルトのふくよかさは圧巻だ。新樽のタンニンは驚くほど穏やかに抑制され、モルトと樽のエッセンスが見事に統合されている。

次の「シェリー・ウッド」も、同じく5種類のモルトを使用している。新樽とファーストフィルのバーボンバレルで3年ほど熟成した後に、シェリー樽でフィニッシュした原酒が50%。最初からシェリー樽に貯蔵したフルタイムのシェリー樽熟成原酒が30%。残りの20%はノンシェリー原酒という比率だ。シェリー樽は40~80年使用されたオロロソとペドロヒメネスの古樽をスペインから直送しているのだとマットが説明する。

徹底してアメリカ西海岸北部のテロワールを表現するのがウエストランドの流儀。ワシントン州産の特別なオーク材や、ワシントン州産のピートを使用したモルト原酒もすでに仕込み済みだ。

「発酵までに得られるスピリッツの甘さは、オレンジマーマレードのような趣きがあります。シェリー樽で熟成すると、そこにレーズンや砂糖煮したトロピカルフルーツのような甘さが加わります。新樽原酒がダークチョコレートなら、シェリーカスクはミルクチョコレートのようなクリーム感。こんな違いを楽しむのも、モルトウイスキーの醍醐味ですね」

最後は「ピーテッド」だ。モルト原料の80%は前述の5種類で、残りの20%がスコットランドから輸入したヘビリーピーテッド(55ppm)のモルトである。熟成は70%が新樽で、30%がファーストフィルのバーボン樽。新樽のクリーミーな味わいも、ピート香と出会うことで柑橘のような風味が強調されている。

「ヘビリーピーテッドのモルトは、発酵時にレモンメレンゲやキーライムパイのような味わいを備えます。そこにピート香が混じり合うことで、甘みの質も変わってくるのです。ハウススタイルとピート香が融合すると、タバコやキャンプファイヤーのような印象が生まれます」

この3つのウイスキーは、紛れもなく世界のモルトウイスキーの最前線だ。アメリカらしい実験精神の果てに、驚くべき完成度を誇示している。西海岸北部のユニークな大地と文化を、ウイスキー自身が語っているのだ。

ウエストランドの挑戦は、まだ始まったばかりである。最近ではハーブ香の強いワシントン州産のピーテッドモルトも調達し、希少な現地産のオーク「ギャリアナ」で熟成した原酒も熟成中。すべての挑戦が、地域コミュニティーを巻き込んで実行されているのだとクリスは力説する。

「ここで新しい伝統を創始するには、消費者はもちろん、農家やサプライヤーなど地域全体への貢献が不可欠です。自分たちの成功によって、誰かが不利益を被るようなビジネスはしない。あなたが嬉しいのなら、私たちも嬉しい。これがアメリカ北西部の精神なのです」

 

 

ウエストランド アメリカン・オーク

容量:700ml

アルコール度数:46%

希望小売価格:7,500円(税抜)

ウエストランド シェリー・ウッド

容量:700ml

アルコール度数:46%

希望小売価格:8,800円(税抜)

ウエストランド ピーテッド

容量:700ml

アルコール度数:46%

希望小売価格:8,800円(税抜)

 

 

伝統的なウイスキー造りにフロンティアスピリットを注ぎ込んだアメリカンシングルモルトウイスキー。ウエストランドの製品情報はこちらから。