スコットランドの島めぐり【第1回/全3回】

January 12, 2018


ウイスキーファンなら、一度は行ってみたいと憧れるスコットランドの島めぐり。壮大な計画に思えるかもしれないが、案ずるより生むが易し。アラン島、アイラ島から旅を始めよう。

文:クリストファー・コーツ

 

「この時代に、島で蒸溜所を開業するなんて気違い沙汰だ」

ある蒸溜家が、そんなことを言っていた。輸送費も高いし、人材の確保も大変であることを踏まえた発言だ。言うまでもなく、この発言者も島の蒸溜所で働いている。

確かに本土から遠く離れた場所でウイスキーをつくるのは不便だ。それでも既存のウイスキー蒸溜所が島嶼部からなくなることはなかったし、起業家たちはスコットランド屈指の僻地に新しい蒸溜所を建てている。これは一体どういう訳だろう。

地の果てのような島々であろうとも、移動自体にかつてのような苦労は無用だ。カレドニアン・マクブレイン、ノースリンク・フェリーズ、ペントランド・フェリーズなどの便利な航路があり、島々への空路もよく整備されている。本土よりも立派な飛行場もあるので、船旅に関心のない人々にはさらに便利だ。

島めぐりの中心は、やはりアイラ島。アードベッグ蒸溜所(メイン写真も)を始めとする有名な生産拠点が点在している。

スコットランド島嶼部にある個々の蒸溜所のスピリッツについて、その特徴を議論することは他の機会に譲ろう。テロワールなどについて広いテーマを語りだしたら、全蒸留所を紹介するのに本1冊分の情報が必要になるだろう。

すべてのスコットランド島嶼部の蒸溜所には共通点もある。それは土地に根差した固有のパーソナリティを持っていること。島の鄙びた小さな敷地で存続してきた蒸溜所は、かつて交通網が未発達の時代には今よりも土地の個性に縛られた存在だったはずであり、島のコミュニティと一体化していたことは自明である。蒸溜所がなければ、島自体のアイデンティティが薄らいでしまうほど重要な存在であったに違いない。

さあ旅は南から始めよう。起点はクライド湾に面したロックランザにあるアラン蒸溜所(アイル・オブ・アラン・ディスティラーズ)だ。シーバスブラザーズ(シーグラム)やハウス・オブ・キャンベル(ペルノー)でマネージング・ディレクターを歴任してきたハロルド・カリーに率いられ、1995年6月から稼働してきた。創立当時は、現在のような蒸溜所建設ブームが到来することを誰も知る由はなかった。

建設時の蒸溜設備は1対のポットスチルのみだったが、近年の事業の成功に後押しされ、2016年末にもう1対のスチルを追加して生産量も拡大。ここ10年は、マスターディスティラーのジェームズ・マクタガートがしっかりと品質を管理している。ジェームズは、アイラ島のボウモアで研鑚を積み、ウイスキー業界で40年の経歴を誇る人物だ。

スコッチウイスキーに対する世界的な需要を確信しているアイル・オブ・アラン・ディスティラーズは、島の南部にあるラッグ村に特徴的なヘビーピートのスピリッツを生産する2軒目の蒸溜所を建設中。現在のところ、2018年内には開業できる見込みである。

多彩な風景に恵まれたアラン島は「スコットランドのミニチュア」とも呼ばれ、ハイカーや写真家たちにも人気の島。ノース・エアシャーのアードロッサンからカルマック・フェリーの定期運航便に乗るか、キンタイア半島のクラオネグ(夏季)またはターバート(冬季)から出発する季節運航便でも訪ねることができる。

 

新築ブームが続く聖地アイラ島

 

次の目的地は、蒸溜所の密集地帯として知らているアイラ島だ。キンタイア半島西岸沖に浮かぶ島はいつも強風に晒されているが、ピート香を愛するウイスキー巡礼者たちが世界中から押し寄せる。

クラフトディスティラリーの先駆者だったキルホーマン蒸溜所。間もなく「アイラでいちばん新しい蒸溜所」という位置づけを卒業することになる。

現在、アイラ島にはアードベッグ、ボウモア、ブルックラディ、ブナハーブン、カリラ、キルホーマン、ラガヴーリン、ラフロイグと8軒の蒸溜所がある。アクセスはアイラ空港まで飛行機で行くか、キンタイア半島のケナクレイグからポート・エレンまはたポート・アスケイグまでフェリーに乗る。

前述した8つの蒸溜所の他、アイラ島の蒸溜所リストには2018年5月に開業予定のアードナッホー蒸溜所(ハンターレイン)と、再稼働が予定されているポートエレン蒸溜所(ディアジオ)がまもなく加わることになる。アードナッホー蒸溜所は、クラシックなスタイルのピート香を特徴とするアイラモルトの生産を目指しており、採水地はすぐそばのアードナッホー湖だ。ポートエレン蒸溜所は3,500万ポンドを投じた蒸溜所再生プロジェクトの計画を2017年10月に発表。歴史あるブローラ蒸溜所をサザーランドで再建する計画とともに進行中である。ポート・エレン蒸溜所はもともと1825年に創設されたが、1983年に操業を休止して1987年に解体。最近になって晩年のシングルモルトがオークションで途方もない高値を付けたことから、ディアジオがブランド復活に賭けたのであろう。結果がどうなるかは、神のみぞ知る。

最近まで実現を期待されていたもうひとつのプロジェクトが、ガートブレック蒸溜所である。3年ほど前、フランスのブルターニュにあるグランアーモー蒸溜所を経営するジャン・ドネに、ガートブレック農場で蒸溜所を建設する計画の許可が下りた。だが当初からプロジェクトのパートナーだったハンターレインと対立し、現在はすべてが急停止してしまった状態である。問題の種は、蒸溜所建設予定地に隣接する小さな土地。この土地をハンターレインが購入していたことから、許可なく建設工事も始められない。最近の報告によると、この問題は話し合いで解決され、近々またプロジェクトが動き出すかもしれないという。だが今この記事を書いている段階で、何かを断定するのは避けたい。

アイラ島の新設蒸溜所の先駆けといえば、2005年にウィルズ家が設立したファームディスティラリーのキルホーマン蒸溜所がある。ロックサイド農場に建設した伝統的な小規模蒸溜所で、「麦からグラスまで」というモットーの通り、使用する大麦の約25%は蒸溜所周辺の麦畑で栽培したもの。モルトの20%を蒸溜所内でフロアモルティングして、残りをポートエレンから調達している。

アイラ島では、音楽とモルトウイスキーの祭典「アイラ・ ウイスキー・フェスティバル」が毎年開催される。2018年の会期は、5月25日(金)〜 6月2日(土)だ。島中でたくさんの特別イベントが催され、各蒸溜所が熱心なファンたちのために門戸を開放する。スコットランドの国民的なお酒と音楽が中心のお祭りとあって、同好の士たちと結ぶ連帯感は格別である。ただし人気が加熱しているため、宿泊施設は驚くほど早期から満室状態だ。今から2019年の宿を予約できた人は、かなりラッキーだと思ったほうがいいだろう。

 

 

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