WMJ的酒場放浪記・11　【神戸編その2】

February 12, 2014

神戸を訪れたら、このバーに行かないわけにはいかない。WMJの酒場放浪記、第11回は昨年20周年を迎えた「Bar Main Malt」へお邪魔した。

「関西の老舗バー」「西のモルト界の名店」と噂に名高いこともあり、緊張しながらビルの階段を下りる。恐る恐る扉を開けると、陽気な声が出迎えてくれた。
明るい店内、常連さんがにこやかにウイスキーを愉しんでおられ、なにより「どうぞどうぞ、散らかってますけど」とカウンターの中の後藤昌史さんがとてもフレンドリーに声をかけてくれたおかげで一気に緊張が解けた。

安心したところで最初の1杯、ハイボールをいただいた。冷凍庫で冷やしたフェイマスグラウスをソーダで割り、氷なしでサーブする。いわゆる「神戸スタイルのハイボール」だ。
「うちは最初からこうですね。この方が美味しいかと思って」という言葉を受けて一口。濃いめのウイスキーの香りが弾け、その後甘さがじわりと広がる。ウイスキー好きのためのハイボールという感じだ。
フェイマスグラウスがたっぷりと入っているので、氷がないからと急いで飲んだらかなり効いてしまうだろう。そう思いつつゆっくり口にしていたら、少しずつ温度が上がるにつれて、炭酸の力を借りながら開いてくるウイスキーの香りに驚く。これもまた通の心をくすぐるのだなと納得。

それにしても、人づてに聞いてはいたがすごい数のボトルである。所狭しと並ぶボトルとはこのことだ。
そして「メインモルトといえばベンリアック」という言葉通り、ずらりと並ぶベンリアックのボトル。「ベンリアックだけでも100種はありますね」と後藤さん。ベンリアック好きの仲間とともに樽での購入まで手掛けているという。
「蒸溜所の在庫が少なくなったみたいで、なかなか難しいですね。70年代のものはもうほとんど販売していないと聞いています。ボトルだけでも出れば買いますが、エライ高くなってしまって…それでも買わずにはいられませんね」と笑う。

それではやはりベンリアックを飲み比べなければ！と、3種類のテイスティングをお願いする。登場したのは75年、83年、94年、全てシングルカスクだ。ほぼ10年違いのこれらのボトルはさてどんな性格なのだろう…と垂直テイスティングをスタート。

75年は、Tokyoインターナショナル・バーショー限定ボトルのホグスヘッド。いきなり脳天を直撃する美味しさに言葉を失う。しっかりとしたボディ、ナッティな香りをアクセントに、缶詰のパインのようなたっぷりとした甘味。最初からすっかりやられてしまった。
83年は酒販店の株式会社信濃屋食品によるオリジナルボトル、ホグスヘッド。派手ではないがモルティ＆フルーティのバランスが絶妙。ほのかなジンジャー、華やかさもある。
そして94年はマネージャーズチョイスのバーボンバレル。こちらはガラリと変わってトロピカル感とクリーミーさに包まれる。クリームを添えたフルーツタルト、かすかにミントの清涼感。
後藤さんのおっしゃる「白桃」のフレーバーが共通して感じられながらも、どのボトルもはっきりと個性的で魅惑的。ひとつの蒸溜所でこれほどの違い、これは虜になってしまうのも頷ける。
シングルカスクはなくなってしまったらお終い…まさに一期一会。こうして貴重なボトルとの出会いで驚きや喜びを得られるのは、バーならではの醍醐味なのだ。

じっくりとベンリアックの違いを楽しみながら聞く後藤さんのお話がまた面白い。
樽を選ぶ際のテイスティングでの葛藤、神戸という街の今昔、オールドボトルの豆知識。その時々に入る常連さんとの会話も軽快で、ポンポンと弾むように本気とも冗談ともつかないような言葉が飛び交う。傍で聞いていても吹き出してしまうようなこのノリは、土地柄であり後藤さんのお人柄であり、そしてウイスキーを愛する人同士の「言わずもがな」の間の取り方なのである。
こうして楽しい会話と素晴らしいウイスキーに身をゆだねていると、瞬く間に時間が過ぎてしまう。

堅苦しい老舗と思うなかれ。初めて扉を開けて、気になったボトルを頼んでも「これ高いで！　ハーフにしとき、半額やから」とハーフとは思えない量を注いでくれる。もうこれだけでウイスキー好きはノックアウトされてしまうだろう。ここにはウイスキーと関西トークのエンターテインメイントが満ち溢れている。

ウイスキーをこよなく愛する後藤さんが厳選した1000本以上のボトルは、それぞれの魅力を十分に発揮できるパートナーを得て誇らしく輝き、あなたを迎えてくれるだろう。距離に関係なく通いたくなるバーのリストに入れたくなること間違いなしだ。もちろん、記者もそのひとりである。