シングルモルトのような制約がないから、自由に新しいフレーバーを追求できる。自分にぴったりのブレンデッドウイスキーと出会う旅を始めよう。

文:ジャスティン・ヘーゼルハースト

 

大半のブレンデッドウイスキーは、単純にお酒として消費されることを目的につくられている。風味を分析したり、感動を誘ったりするのは二の次であるということだ。そのためブレンデッドウイスキーは、既存のしきたりや先入観から抜け出しやすい存在であるともいえる。一方のシングルモルトウイスキーは、堅苦しい決まりや古い価値観に縛られて大きな変化を起こしにくい。

かつて1800年代半ばにブレンデッドスコッチウイスキーが大きく進化したのは、スコッチウイスキーの飲みやすさが当時の消費スタイルにマッチしていたからだ。あの古いブームとは対照的に、現代のウイスキーの消費者のニーズはウイスキーカテゴリー全体でイノベーションやクリエイティビティを促進させている。その結果、オンザロック、ソーダ割り、カクテルなどの自由な飲み方が推奨され、今日の消費者にとっては敷居が低い気軽な飲み物として提案できるようになった。これはブレンデッドウイスキーの明らかなメリットといえるだろう。

かつての古くさいイメージから解き放たれたブレンデッドウイスキーは、イマジネーションやオリジナリティを今まで以上に主張できるようになった。ここでいうオリジナリティとは、革新的な生産方法を取り入れることでもいいし、売り場やバー環境での新しい体験を提案することでもいい。大事なのは、新世代のウイスキー消費者にアピールできることだ。

スマホで即座に製品の知識が手に入れられる現代の消費者は、地元のスーパーマーケットに並んでいる商品だけでは満足しない。英国に住んでいるからといって、スコットランド産のブレンデッドウイスキーばかりを飲まなければいけない訳でもない。
 

ブレンデッド軽視で衰退したアイリッシュの復活

 

アイリッシュウイスキー業界が近年になって再び活況を呈してきたことで、アイルランドでも次々に新しい蒸溜所が建設されている。そればかりでなく、数え切れないほどの新しいウイスキーブランドが発売されて酒屋の棚を賑わすことになった。

中には原料としているウイスキーの出自を明かしていないオーナーもいるが、チャペルゲート・アイリッシュウイスキー・カンパニーの創設者であるルイーズ・マグエインのように決してディスティラーを名乗らないメーカーもいる。

その一方で、ルイーズ・マグエインは透明性大地を旗幟鮮明にしており、自社ブランドの「J.J.コリー」は失われていたアイリッシュウイスキーのスタイルを取り戻した製品であると主張している。つまりかつては存在した蒸溜所同士のつながりをブレンドによって復活させ、ブレンディングこそがアイリッシュウイスキーのアイデンティティの根幹にあるという意見である。

考えてみれば、アイリッシュウイスキー業界が衰退してしまった理由のひとつは、蒸溜所がシングルポットスチルウイスキーの生産にこだわって、グレーンウイスキーとブレンドする技術の継承を拒んでしまったことにある。プレミアムクラスのブレンデッドアイリッシュウイスキーが大成功を収め、アイリッシュウイスキー業界全体が再生しつつある現在の状況は、皮肉だが重要な示唆に富んでいる。

 

透明性と革新性の両立が鍵

 

現代のウイスキー消費者にとって、透明性は極めて重要な要素だ。最近も日本のウイスキー業界が、ジャパニーズウイスキーの定義をめぐって話し合ったばかり。明確な定義を法制化することで、カテゴリー全体を健全化するのが目的だ。新しい定義は来年末までに法制化される予定だが、それまでは現在の不透明なジャパニーズブレンデッドウイスキーの定義が残ることになる。

J.J.コリーの「フリントロック」でアイリッシュブレンデッドウイスキーを再興したチャペルゲート・アイリッシュウイスキー・カンパニー。創設者のルイーズ・マグエイン(メイン写真)は、蒸溜技術なしで独自のフレーバーを提案している。

ジャパニーズウイスキーへの需要がかつてないほどに高まるにつれて、日本国内では長期熟成の原酒が逼迫してきている。しかしジャパニーズウイスキーを明確に定義する法律がないため、スコットランドなどの諸外国から輸入した原酒を使用したウイスキーまでがジャパニーズブレンデッドウイスキーを名乗っている現状がある。輸入原酒の使用を明示している秩父蒸溜所などを除いて、原酒の出自を明らかにしていない日本のメーカーが存在するのだ。

ブレンデッドウイスキーの原酒にスコッチウイスキーを使用しているのは日本のウイスキーメーカーだけではない。スコットランドのお隣りのイングランドでも、レイクス蒸溜所は看板商品の「ザ・ワン」にスコットランド産の原酒を使用している。またブティックウイスキーは、国境を越えた世界のウイスキー文化を賛美する「ワールドウイスキー」というコンセプトを打ち出した。このシリーズの原酒もスコッチウイスキーが主体である。

スコッチウイスキーには、依然として世界中のウイスキーメーカーをインスパイアする業界リーダーとしての基盤がある。だが同時に、厳しい規制によってみずから制約を受ける立場でもある。スコッチが外国のウイスキーメーカーに実験的な商品開発を促すことで、革新的かつクリエイティブなブレンデッドウイスキーが生産可能になり、世界のウイスキー愛好者にアピールできる可能性を無視してはいけない。

グランツのダニエル・ダイアーも、そんな想いには賛同する立場だ。極めて多彩なフレーバーから原酒を選べるのは明らかなメリットである。

「もっとも硬派なシングルモルトウイスキーの信奉者にも、ブレンデッドウイスキーを試してみるように促し続けたいと思います。新しいシングルモルトウイスキーを探すのと同じくらい自由な心で、ブレンデッドウイスキーにも接して欲しいのです。なぜならシングルモルトウイスキーと同様に、多彩なブレンデッドウイスキーの中には自分の好みにぴったりの味わいがきっと存在するからです」

厳しいルールもなく、排他的でもない。その結果、シングルモルトよりずっと楽しい可能性を内在させているのがブレンデッドウイスキーの魅力だ。個性的な新しいフレーバーを探し求めているウイスキー愛好者たちにも十分にアピールできる。コンパスボックスのジョン・グレイザーは、いみじくもこう語ってくれた。

「ブレンデッドウイスキーは素晴らしい。どんな蒸溜所も単独ではつくれないウイスキーを味あわせてくれる存在ですから」