ブレンディングの科学【その2・全4回】
ブレンディングの芸術性を解明する連載の第二弾。ブレンデッドウイスキーのハウススタイルについての興味深い考察。
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マッカイ社(ホワイトホースブランドの所有者)のためにアルフレッド・バーナードが書いたあまり知られていないパンフレット、「スコッチウイスキーのブレンド方法(How to Blend Scotch Whisky)」は現在でも真実かつ妥当であり、ブレンデッドウイスキーがどれほど急速に発展したかを理解する上で有益だ。例えば、以下のような文がある。
「非常に多くの人が、自分もウイスキーをブレンドできる、数種類の原酒を混ぜるだけのことだ、と考えている」
バーナードはそう思わなかったし、今日のブレンダーも思わないだろう。自分で試してみれば分かる。最初に試したときは口に合うかもしれない。だが、それを何度も繰り返して、同じものを何千ケースも作ることができるだろうか? そして多くの人に愛され、また飲みたいと思わせることはできるのか?
「低品質のウイスキーから高級なブレンドは生まれないという事を忘れてはならない…スコッチウイスキーでは熟成年数がブレンディングの重要事項だ。次に重要なものは風味だ」
この「熟成年数」について、バーナードは当初「理想的なブレンド」には最長で10年モノ、一般的な製品には2年~4年モノで十分事足りると思っていたようだ。
しかし数年のうちに、熟練を経たブレンダーは特に高級なグレードのものにはさらに熟成年数の長いウイスキーを使うようになるが、12年を大幅に超えるブレンドを目にするようになるのは何年も先のことだった。
「非常に多い間違いは、ブレンドしたてのウイスキーを製品化することだ。元の原酒がどれほど熟成していても、『後熟(マリッジ)』させない限り、ブレンドされたウイスキーの中で繊細さと風味が展開することはない。ブレンドをつくったら3〜6ヵ月間は樽の中で寝かせるべきだ」
これは現在に至っても異議を唱える者はいないだろう。
そこで私は考えた。100年以上も前にブレンディングの必須要件が確立されていたのなら、現代のブレンダーたちはどうやって一貫性を保ち、一定のハウススタイルを維持しているのだろう?
私はその疑問をジョニー・ウォーカーのマスターブレンダー、ジム・ベバリッジ博士と同僚のマシュー・クロウ博士にぶつけてみた。ウォーカー社のハウススタイルは1860年代、「オールド・ハイランド・ウイスキー」で初めての商標を得たときに確立された。もちろん、当時同社はキルマーノック(スコットランド南部の町)を本拠地としていたため、創業者ジョン・ウォーカーとその息子のアレキサンダーは主としてスコットランド西海岸からウイスキーを得ていただろう。スタイルはよりヘビーでピーティ、スモーキーだった。
それは今も変わらない。実際、西海岸ウイスキーをルーツとするウォーカー社のハウススタイルを、デュワー社が続けているスタイル (甘めで蜂蜜を加えたパースシャー・ウイスキーから発展、スコットランド東部のパース発祥 )と比較してみると面白い。デュワー社のブレンドの中核には同社のアバフェルディのシングルモルトがたっぷりと使われ、柔らかさと甘さが自然に存在して、ウォーカー社の特徴とは大きく異なる。
ウォーカー社では、創業者らがつけていた最初のブレンディングの記録があったことが功を奏した。これを調べてみると、19世紀後期までにアレキサンダー・ウォーカー二世が「ブレンディング・ブロック」方式を採用していたことは明らかだ。同社は現在これを6つの「基本的影響要素(cardinal influences)」と称し、それぞれの要素が蒸溜所の特徴、木材、熟成度の効果をブレンドに付与する要因と考えている。
事実、20世紀初めのウォーカー社のストック記録には多様な種類のウイスキーが記載されている。70種以上の異なるつくりのモルトと、少なくとも12種類のグレーンが使われていた。これが、通を熱狂させる複雑さを作り出すために不可欠な品質と風味をもたらしていた。1910年までに、同社は初の高級ブレンドを創造するために多様な熟成年数のウイスキーを揃えていた − その伝統は今日まで続いている。
【その3に続く】
コラム:チョコレート
ご存じのとおり、いくつかのウイスキーにはチョコレートの香りが感じられる。様々なウイスキーとその個性を引き立てるチョコレートとのペアリングは、面白いテイスティング体験の定番とも言える。
しかし、おそらく皆さんが知らないこと、そして知っておいた方がいいことがある。
カカオ豆は使用する前に発酵させなければならない。そして全てのチョコレートは、良質な味と口当たりを出すためにブレンドされるという事実だ。
ウイスキーと同じく、口当たりはチョコレートのテイスティングでも重要な部分を占める。またカカオは、アルコールのように、身体に物理的な影響を及ぼす化学物質を含む。気分を良くする物質である脳内セロトニンのレベルと関連しているため、カカオの含有率が特に重要だ。テオブロミンやカフェインなどの成分と一緒に、満足感と幸福感を促進する効果があるのだ。ウイスキーとの類似点に気付いただろうか?だから、ウイスキーとチョコレートはただ偶然パートナーになったのではなく、この組合せの背後には確かな化学作用が存在する。
「ロココ・チョコレート」のシャンタール・コアディのような最先端のショコラティエから「魔法のような、ドラマチックで感動的なチョコレートの体験」の話を聞くと、私はスコットランドの蒸溜所とブレンディングルームに瞬間移動してしまう。彼女はチョコレートの素晴らしいブレンドの成果を、「バランスが取れていて、チョコレート本来の味を邪魔してはならないが、チョコレートの各個性が主張しすぎてもいない」と表現する。まるでウイスキーのブレンダーの話のようではないか!?