アイリッシュウイスキー「バスカー」のブランドアンバサダーが来日。人気を集める豊かなフレーバーの秘密について明かしてくれた。

文:WMJ

 

バーやショップで、ひときわ異彩を放つボトルデザイン。「開栓したばかりなのに、気づいたらボトルが空になっていた」という都市伝説。新時代のアイリッシュウイスキー「バスカー」は、登場から短期間で日本のウイスキーファンを魅了する人気銘柄になった。

バスカー支持者には、ウイスキー初心者もいれば長年のウイスキーマニアもいる。ハイボール用に常備している人は多いが、オン・ザ・ロックやカクテルで楽しむ人も増えてきた。高品質でありながら、既存のウイスキーから逸脱した気取らないイメージが受けているのかもしれない。

アイルランド南東部のカーロウ近郊で、2016年から操業を続けるロイヤルオーク蒸溜所。アイリッシュウイスキーの伝統と革新を融合させている。

そんなバスカーのグローバルブランドアンバサダーが、このたび日本にやってきた。ウッディ・ケインは、伝統を重んじながらも自由な独創性を希求する生粋のアイルランド人だ。

「私のウイスキー原体験は、祖父が友人たちと自宅の暖炉を囲み、楽しそうに歓談していた風景。ウイスキーは人々を結びつけ、その絆を広げてくれる存在です。バスカーを愛する日本のみなさんに、ウイスキーの豊かな物語をお伝えしたいと思っていました」

バスカーの物語を始めるために、ウッディはまずウイスキーの歴史を原初までさかのぼる。アイルランドは世界で最も古くからウイスキーがつくられていた国であり、今でも世界最高のウイスキーを生み出す国であるとウッディは信じている。

「ウイスキーの祖国はアイルランド。だからウイスキーの伝統は私たち自身の歴史であり、生活文化にも結びついてきました。その伝統を継承するには、さまざまな工夫や技術革新も必要。偉大な先人たちの肩に乗って未来を見通し、百年先の礎を築くのも現代を生きる我々のつとめです」

ウッディと同じ信念を持つ者は、アイルランドの国外にもいる。アマレットリキュール「ディサローノ」で有名なイルヴァ・サローノ社CEOのアウグスト・レイナだ。定番カクテル「ゴッドファーザー」にぴったりのアイリッシュウイスキーを求め、みずから最高品質のウイスキーをつくろうと決意したのが2012年のこと。巨額の設備投資を経て、2016年からカーロウでロイヤルオーク蒸溜所を始動させたのだとウッディは振りかえる。

「未来の人々に素晴らしいウイスキーを届けるため、ロイヤルオーク蒸溜所はアイルランドでもっとも先進的な設備と技術を導入しました。今後何百年にもわたって、私たちのウイスキーを楽しんでほしいからです」
 

3種類の原酒と3種類の樽が織りなす華やかな香味

 
ロイヤルオーク蒸溜所は、モルトウイスキー、ポットスチルウイスキー、グレーンウイスキーの3種類をひとつ屋根の下で生産できるアイルランド唯一の蒸溜所だ。3種類の熟成樽(バーボン樽、オロロソシェリー樽、マルサラワイン樽)を贅沢に使用し、それぞれの原酒の魅力を引き出している。

すっかりおなじみになったグリーンラベルのバスカーは、ロイヤルオーク蒸溜所が誇る3種類のウイスキーをブレンドした商品だ。ウッディによると、シングルモルトとシングルポットスチルの構成比(合計)が一般的なアイリッシュウイスキーよりも高い。リーズナブルな価格でありながら、世界的なアワードで名だたるプレミアムブランドと渡り合っている。

モルトウイスキー、ポットスチルウイスキー、グレーンウイスキーの3種類が同一施設で蒸溜できるアイルランドで唯一の蒸溜所。ロイヤルオーク蒸溜所のモルトウイスキーは、アイリッシュ伝統の3回蒸溜である。

「このウイスキーの魅力は、それぞれの原酒が醸し出す香味の多様性。うっとりするほど甘いグレーンウイスキーは、バーボンウイスキーを連想させます。フレッシュでフローラルなモルトウイスキーは、スコッチウイスキーの愛好家を魅了するほど。ポットスチルウイスキーは、アイリッシュらしいスパイシーでオイリーな味わいが印象的です」

そして3種類の熟成樽が、スムーズな飲み心地を完成させる。バーボン樽からは、カラメルやバニラの香り。シェリー樽からは、ナッツや果実の香り。そしてシチリア産のマルサラ樽は、熟成の最後に独特な甘さとドライフルーツのような香味を加えるのだ。

「味わいが複層的なので、大人気のハイボールはもちろん、オン・ザ・ロックやストレートでも楽しめます。クラシックなカクテルにしても自己主張できるフレーバーの強さがあり、そのユニークな個性からは新しいカクテルのアイデアも湧いてくるはず。みんなのクリエイティビティを刺激するのもバスカーの狙いなのです」

ウッディが作ってくれた数種類のカクテルは、ひとつのウイスキーから生まれたとは思えないほど多彩な魅力を表現していた。親しみやすさの奥に、底しれない複雑さがある。この広がりと奥行きこそが、ついついおかわりしてしまうバスカーの魅力なのだろう。
 

破れたラベルが意味するもの

 
ウイスキーを飲み慣れた人々にとって、バスカーのカジュアルなイメージはとても新鮮だ。しっかりとした味わいなので、初心者がまず試してみるウイスキーにも相応しい。何よりもアイリッシュのイメージを刷新するクラフト感が、圧倒的なコスパも手伝って業界に衝撃をもたらしている。

バスカーのグローバルブランドアンバサダーを務めるウッディ・ケイン。ウイスキーの祖国で生まれた新しいウイスキーに誇りを持っている。

「品質では、決して妥協したくない。でもずっとみなさんの手の届く場所にいたい。信頼と親しみやすさの両立が、バスカーの願いなんです。仲間たちが集まってボトルキャップを外したら、もう再び閉められることがない。そんな美味しくて気取らないウイスキーであることも理想のひとつです」

ブランド名の「バスカー」とは、いわゆる大道芸人や路上ミュージシャンのこと。ダブリンなどの街角を歩けば、独立心旺盛なバスカーたちが道行く人達を楽しませてくれる。予告もなく群衆を集める彼らの実力は、やがてストリートを飛び越えて世界中の人々を魅了することもある。

手で破ったようなラベルのデザインも、一度見たら忘れられないバスカーのシンボルだ。ウッディによると、これはちぎれた切符のイメージなのだという。

「ちぎれた切符をモチーフにしたラベルは、勇敢で冒険的な旅人たちへの敬意を表しています。バスカーには、大胆な勇気で住み慣れた故郷を飛び出し、遠く離れた人々にもその価値を提供したいという野心がある。自分の力を信じて挑戦する者は、誰もがみなバスカーなのですから」

生粋のアイリッシュウイスキーである誇りを忘れず、しかも既存のウイスキーへの先入観を揺さぶるような存在。ストリートの叫びから、世界を変えていくのがバスカー精神なのだ。

「ウイスキーを広めながら、ウイスキー以上の存在になりたい。そんなバスカーを愛する仲間たちと一緒に、みんなで新しい世界へ旅立ちましょう」