ローランドらしい軽やかな香味を目指し、熟成前のキャッシュフロー戦略はアイラの先駆者に学ぶ。フォルカーク蒸溜所は、ウイスキー観光の新しいモデルにもなるだろう。

文:ガヴィン・スミス

 

フォルカーク蒸溜所で、スピリッツ生産全般の責任者を務めるのはグレアム・ブラウン蒸溜所長だ。マル島のトバモリーで生まれ、今でも実家は島にある。グレアムの父はトバモリー蒸溜所の蒸溜所長をしていた人で、息子も同じウイスキーづくりの道を歩むことになった。フォルカーク蒸溜所だけでなく、パークシャーのディーンストン蒸溜所でも働いている。そんなグレアムが、フォルカークの特徴を解説してくれた。

「発酵時間は100時間以上あり、フルーティな酒質につながる二次発酵のようなことも起こっています。蒸溜はすべて手動でおこなわれます。スチルのネックは長く、ウォッシュスチルのラインアームは水平。スピリットスチルのラインアームは、長くてやや下向きです。スピリットスチルをゆっくり加熱することで不純物の混入を防ぎ、カットの度数も高めに設定しています。つまりはクリーンで上質なスピリッツですね。私たちの狙いは、何をおいてもスピリッツの品質にこだわること。本当に心から誇れるような品質でなければ、焦って市場に出したりはしません。最終的な製品を吟味していただければ、その真意は伝わると信じています」

蒸溜所運営を管轄するのは、創業者ジョージ・スチュワートの娘にあたるフィオナ・スチュワート。品質の責任者はグレアム・ブラウン蒸溜所長だ。

創業者のジョージ・スチュワートいわく、今後は熟成中の経過を確認できるようなボトルをいくつか発売していく予定があるようだ。ジョージが引き合いに出したのは、熟成初期の段階から未熟成のウイスキーを紹介したキルホーマンの成功例である。熟成期間1カ月、1年、2年のスピリッツをミニチュアボトル3本パックにして、スピリッツの進化を実感できるような商品企画だ。

フォルカーク蒸溜所のニューメイクスピリッツは、大多数がファーストフィルのバーボン樽に入れられ、一部がファーストフィルのオロロソシェリー樽で熟成される。法的にスコッチウイスキーを名乗れるまでの熟成初期に、スモールバッチの限定発売商品を発売しようという狙いが蒸溜所チームにはあるようだ。

定番品としてのフォルカークのシングルモルトは、ウイスキーの熟成が5年の歳月を数えるまでお目にかかれない。その事実を踏まえながら、初期のニューメイク商品はバーボン樽熟成よりも早熟なシェリー樽熟成のほうが相応しいだろうとグレアムは考えている。

それまでの間、樽に入れられたスピリッツは、美しいレンガ造りの貯蔵庫で時を過ごすことになる。貯蔵庫はダンネージ式で、3段組になっている。時期が来れば、ボトリングも蒸留所内でおこなわれる予定だ。フォルカークのスピリッツが熟成を完了するのを待ちながら、ロッホローモンドから6年熟成のシングルモルト原酒を購入して、ここでボトリングされて一般に販売もされるのだという。
 

ビジター体験とファウンダーズクラブ

 

フォルカーク蒸溜所は、今年8月に一般公開される。第一級のビジター体験を約束するため、さまざまな工夫がなされてきた。車椅子が通れる広い通路やエレベーターを整備し、広々としたギフトショップや120席のレストランが生産エリアに隣接している。蒸溜所ですべての設備が稼働すると、総勢80人が雇用されることになるという。年間の訪問者数は、8万人ほどになると見込まれている。

まったく新しい蒸溜所でありながら、スコットランドやローランド地方の伝統を受け継いでいるフォルカーク蒸溜所。ウイスキーの品質はもちろん、ビジター体験や会員制度にも注目が集まっている。

ただ1回きりの蒸溜所ツアーでは満足できなさそうな人々のために、フォルカーク蒸溜所ではファウンダーズクラブの会員も募集している。会員になると一般ではアクセスできない商品も購入できるようになり、樽板でできた壁に自分の名前が刻まれて、ニューメイクスピリッツ(200mlボトル)が1本プレゼントされる。

さらに真剣なサポーターなら、フォルカークのスピリッツが入ったバーボン樽やシェリー樽を樽ごと購入することも可能だ。最近の成果について、ジョージは誇らしげに教えてくれた。

「カスク番号88番の樽は、香港在住の方が売約済みです。中国文化で「8」は最大の吉数として知られていますから。ちなみにカスク番号888番はすでに市場で10万英ポンドの値が付いており、これもまた別の香港のバイヤーの手に渡る予定です」

ここまでのフォルカーク蒸溜所の歴史は、辛抱と我慢の連続だった。そんな苦労も、最上級のスピリッツをつくり、地元の雇用を創出し、誰にでも誇れる素晴らしいビジター体験を実現しようという強い決意があったからに他ならない。ここはジョージの新しい家なのだ。

「ここまで家族で築き上げたビジネスの基盤を誇りに思っています。これからは地元のコミュニティとも同じプライドを分かち合って、フォルカークでウイスキーづくりの伝統を取り戻せたら嬉しいですね」