The Proud Whisky ―富士御殿場蒸溜所【前半/全2回】

August 4, 2014

昨年創業40周年を迎えたキリンディスティラリー株式会社 富士御殿場蒸溜所を訪問。全2回に分けてレポートをお届けする。前半は独特の歴史を誇る蒸溜所をご紹介する。

富士山の麓、静岡県御殿場市
標高600mという高地に位置するため、夏でも冷涼な気候が特徴だ。その気候と富士山の火山灰や岩石層でじっくりと磨かれた水…それが、キリンビール株式会社(当時)がこの地に蒸溜所の建設を決めた主な理由である。

同社は蒸溜所の建設にあたって、キリンビール、J.Eシーグラム(米国)、シーバスブラザーズ社(英国)による合弁会社としてキリン・シーグラムを設立。これによって、シーグラムのカナダ・アメリカでの蒸留酒づくりのノウハウ、そして傘下にあったシーバス・ブラザーズ社からのスコッチウイスキーの技術を吸収することができた。これが日本の蒸溜所としては唯一の「カナダ、アメリカ、スコットランドのDNAを持つ蒸溜所」となる所以である。
そのDNAが最も大きく生かされているのは、グレーンウイスキーの蒸留。この蒸溜所の最も特徴的な点は、4種類の蒸留システムを保有している、ということだ。1972年操業開始と大手としてはやや遅咲きながら、過去2年連続でWWAにおいてベストジャパニーズグレーンを受賞しているのは、そのような背景に裏打ちされている。

当日は、田中 城太チーフブレンダーに丁寧なご説明とともに蒸溜所を案内していただいた。
蒸溜所の見学コースは今年4月末にリニューアルされたばかり
まず始めに蒸溜所の生い立ちとウイスキーづくりを解説するプロジェクションマッピングを使用した15分ほどの最新映像が用意されている。こちらは3つの立体的な大画面に投影される、視覚と聴覚にダイレクトに訴えかけてくる映像で、とても見ごたえがある。前述したような、富士御殿場蒸溜所の背景から現在のつくりのこだわりまでがとても分かりやすく説明されている。

その後、蒸留設備へ向かう。こちらの見学はモルトウイスキー用のスチルルームから始まる。
ポットスチル4基(初留2基、精留2基)、マッシュタン1基があるコンパクトな設備だ。
シーバス社所有のストラスアイラと同形の、初留はランタン型、精留はバルジ型を採用。ラインアームは5度上向いている。このスチルの形状によって、クリーンでエステリーな、花や果実を思わせるアロマを持つスピリッツが生み出されている。

そのポットスチルに挟まれるように、グレーンウイスキーのクッカーがある。これはトウモロコシをモルトを加え糖化させる、モルトウイスキーの工程でのマッシュタンにあたる糖化槽だ。トウモロコシをスチームで加熱し粥状になったところで、発酵槽に移す。
約3日の発酵を終えた発酵液は、グレーンウイスキーとなるべく蒸留の工程に入るのだが、この蒸溜所の興味深いところはまさにこの部分。

スチルルームからの扉を開けると、そこは富士御殿場蒸溜所の心臓部。
連続式蒸溜器の第一塔にあたるビアカラムが奥にそびえている。ビアカラムではモルトウイスキーでいうところの初留が行われる。発酵液からアルコールと残滓(トウモロコシのかす、水分)を分離し、原酒によって65~80%にアルコール度数が高められる。

塔の中には、穴の開いた銅の板が何段も棚状に組まれている。上部から注ぎ込まれた発酵液は棚を下に降りていくが、下から吹き込まれてくるスチームに触れ、アルコール分が気化し上部に昇っていく。
いわば棚ひとつひとつが単式蒸留と同じ仕組みになっており、これが繰り返される(=連続蒸留)ことで、高いアルコール度数の蒸留液が得られるのだ。

そのビアカラムから、3つの蒸留システムへのアームが伸びている。ここからが肝だ。

まず1つめのラインはマルチカラム式の蒸留器へ繋がっている。ビアカラムを含めて5つの塔(カラム)から成る五塔式の蒸留器だ。このマルチカラム式蒸留器からは、ライトタイプのグレーンスピリッツが得られる。

そして2つめのラインは下の階に位置する「ケトル」に繋がっている。こちらは単式蒸留器だ。
バッチ式で、その名の通り「やかん」のようなシンプルな蒸留を行う。連続蒸留器とは異なり1回ずつの蒸留を行うため、ポットスチル同様の複雑なフレーバーを持つミディアムタイプのグレーンスピリッツがつくられる。

3つめのラインは「ダブラー」…シーグラム社のバーボン製造技術によって開発された蒸留器に繋がる。日本では、この蒸溜所にしかない。表面は断熱性を高めるためステンレスに覆われているが、本体は銅でできている。ここではヘビーな、バーボンタイプのスピリッツを生み出す。

こうして蒸留されたモルト原酒と3つのスタイルのグレーン原酒は、貯蔵庫で熟成工程に入る。樽はケンタッキーから運ばれたバーボン樽100%だ。
ラック式熟成庫に積み上げられた樽は、霧深い御殿場の冷涼な空気に包まれて長い眠りにつく。

後半では、その贅沢な熟成期間を終え、晴れてウイスキーとして製品化したボトルをご紹介する。

【後半に続く】

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