グレーンウイスキーの熟成

August 23, 2016


モルトウイスキーが熟成期間に獲得するフレーバーについては、ウイスキーファンの知識も増えている。それではグレーンウイスキーの熟成についてはどうだろう。スコッチが誇る名ブレンダーたちの言葉から、イアン・ウィズニウスキが解き明かす。

文:イアン・ウィズニウスキ

 

グレーンウイスキーをテイスティングする機会が増えている。だがその生産者であるウイスキーブランドや蒸溜所の名前がわかった状態で味わえることは、まだ多いとはいえない。圧倒的多数のグレーンウイスキーは、スコッチのブレンデットウイスキーをつくるためにモルトウイスキーとブレンドされる。

スコットランドには、グレーンウイスキーの蒸溜所が7つある。モルトウイスキーの蒸溜所が110もあることを考えると、実に対象的な数字だ。その7つの蒸溜所とは、ロッホローモンド蒸溜所、キャメロンブリッジ蒸溜所(ディアジオ)、ガーヴァン蒸溜所(ウィリアム・グラント&サンズ)、インヴァーゴードン蒸溜所(ホワイト&マッカイ)、ストラスクライド蒸溜所(シーバス・ブラザーズ)、ノースブリティッシュ蒸溜所(エドリントン・グループとディアジオのジョイントベンチャー)、そして2010年に創立したいちばん新しいスターロー蒸溜所(ラ・マルティニケーズ)だ。

「グレーンウイスキーは、生産する蒸溜所ごとに特有のキャラクターを持っています。力強い風味から繊細な風味まで幅は広く、その間にさまざまなバリエーションがあります。このバリエーションの多彩さは本当に言い尽くせないほどで、スコッチブレンデッドウイスキーをつくるときに、すんなり別のグレーンウイスキーを代用できることなどありません」

そう語ってくれたのは、バランタインのマスターブレンダー、 サンディ・ヒスロップ氏である。グレーンウイスキーの風味構成をつくりあげる要因はさまざまだ。原料となるグレーン(穀物)の種類、貯蔵に使うカスクの種類、熟成期間の長さなどによって、風味は大きく異なってくる。

もともとグレーンウイスキーはコーンを原料にしていたが、1980年代になって多くの蒸溜所が小麦に変えた。このグレーン原料の選択が、ニューメイクスピリッツにどのような影響を与えるのだろう。それは蒸溜のやり方によって異なってくる。例えば、コーンは小麦よりも甘味が強いという特徴がある。そのような原料グレーンの特性を強調するような蒸溜法もあれば、なるべく特性が目立たないようにする蒸溜法もあるのだ。

同様に、蒸溜後のスピリッツのアルコール度数が高いほど(94.8%未満で取り出さなければならないという規則がある)、スピリッツのキャラクターは軽めになる。さらにいえば、ニューメイクスピリッツの特性が軽ければ軽いほど、熟成後のグレーンウイスキーはカスクの影響を受けやすくなる。

 

カスクの違いと蒸溜所の個性

 

貯蔵によく使用されるカスクはバーボンバレルだ。このタイプのカスクは、バニラやクリームキャラメルなどのフレーバーをスピリッツに授けてくれる。サンディ・ヒスロップ氏は語る。

「わずか2〜3カ月もすれば、もう甘いバニラの風味がバーボンバレルから得られているのがわかるようになり、かすかに色もついてきます。スピリッツの風味は、12〜15年くらいはほぼ一定の割合で増えていきます。それ以降は、フレーバーの獲得がずっとゆっくりになり、25~30年くらいにわたってゆったりと熟成された頃にはグレーンウイスキーも滑らかさと甘味を増します。心地よいバニラ香があって、オーク、オレンジ、ハニーデューメロンなどの素晴らしい風味も備わってくるのです」

グレーンウイスキーの熟成にはシェリーカスクも使用され、バーボンバレルよりもリッチな甘味と、レーズンなどのドライフルーツを思わせる風味を授けてくれる。ザ・フェイマス・グラウスのマスターブレンダー、カースティン・キャンベル氏が語る。

「2年が経つまでの間に、はっきりと色と風味が備わってきます。シェリーカスクはバーボンバレルよりもスピリッツに与える影響が大きく、グレーンウイスキーの熟成中に引き出される風味成分も多大です。なぜかといえば、シェリー酒はバーボンよりもアルコール度数が低いので、スペインで新樽として使用されたときに引き出されるカスクの成分が少ないためです。ケンタッキーでバーボンに使用されたバレルは、そこでより多くの風味成分を引き出されているので、シェリーカスクほどの影響をグレーンウイスキーに与えません」

カスクがグレーンウイスキーのキャラクターに与える影響は甚大だが、たとえ長期熟成を経たあとでも、もともとの蒸溜所が持っている特徴ははっきりと残るものだという。ウィリアム・グラント&サンズのマスターブレンダー、ブライアン・キンズマン氏が説明する。

「25年ものや、30年もののグレーンウイスキーをボトリングしてきました。どれも見事なウイスキーで、やわらかく丸みがあって、本当に濃厚なトフィーや甘いキャラメルの風味がカスクから引き出されています。それでもガーヴァン蒸留所のフルーティーな特長はまだそこに残されており、同じ熟成年のグレーンウイスキーを別の蒸溜所から取り寄せてみると違いがわかります。つまり熟成されたグレーンウイスキーにも、蒸溜所のキャラクターはしっかりと残っているのです」

単一の蒸溜所でつくったグレーンウイスキーからも多彩な風味のバリエーションは得られるが、ブレンドによって複数の蒸溜所のグレーンウイスキーを組み合わせることで他のチャンスも広がる。コンパスボックスの創設者で数々のウイスキーづくりを手がけてきたジョン・グレイザー氏が語る。

「ヘドニズムという商品は、異なる蒸溜所からグレーンウイスキーを集めてブレンドしたものです。コーンから蒸溜したものもあれば、小麦から蒸溜したものもあります。フルーティーさをもたらしているものあれば、木のキャラクターを加えているものもあります。私たちがヘドニズムを発売したのは15年前ですが、このような種類のブレンディングは独特のスタイルを創造する仕事でした」

 

ブレンデッドウイスキーにおけるグレーンウイスキーの役割

 

「グレーンウイスキーは、その一般的な評価からは想像できないほどブレンデッドウイスキーの風味に影響を与えており、フレーバーにとって非常に大きな役割を担っています。私が新しいブレンデッドウイスキーをつくるとき、まず決めるのがグレーンウイスキー。なぜならブレンドのスタイルを決めるのがグレーンウイスキーだからです。その後で、モルトを加えながら異なった方向性を探ることができます」

ブライアン・キンズマン氏はそう語る。グレーンウイスキーとモルトウイスキーの相互作用によって、新しいフレーバーも生み出される。2つのウイスキーを組み合わせることで、本来はどちらのウイスキーにもなかった風味がつくりだされるのだとキンズマン氏は続ける。

「ブレンドを構成する際には、この相互作用が中心的なピースになります。グレーンとモルトの風味がどのような相互作用を引き起こすのかを理解することが、ブレンディングにおける基本的な要素。最終的にできあがるウイスキーは、それぞれのパーツの総和よりも多くの魅力をたたえていなければならないからです」

カースティン・キャンベル氏が付け加える。

「グレーンウイスキーの魅力はフレーバーだけではありません。ブレンデッドウイスキーの滑らかな口当たりは、その大部分がグレーンウイスキーによるものなのです」

 

 

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