ケンタッキーバーボン最前線【第1回/全3回】
文・写真:マギー・キンバール
ケンタッキー・ディスティラーズ・アソシエーションの報告書によると、ケンタッキー州におけるバーボンの年間生産量は1999年の250%増しとなり、2017年だけで総額11億ドル以上の投資計画がおこなわれている。
同報告書が公表された以降も、さまざまな動きがあった。サントリーは、傘下バーボンブランドに5年で9億400万ドルという大型投資計画の実施を発表。ストリチナヤも、バーズタウンにケンタッキーアウル蒸溜所およびケンタッキーアウルパークを建設すべく1億5,000万ドルを投じる。またバッファロートレースは10年で12億ドルに及ぶ設備投資を開始しており、ルイビルのフレイジャー歴史博物館はケンタッキーバーボントレイルと提携して観光客向けのビジターセンターを建設中。このビジターセンターは、ケンタッキーバーボントレイルの公式な出発地となる予定だ。
近年のケンタッキーバーボン業界で特筆すべき現象のひとつが、熱狂的なバーボンマニアの出現である。金曜日の夜に酒屋を訪ねると、店の外にたくさんの椅子が並んでいることがある。土曜日の朝から売り出す数量限定のバーボンなどを求め、夜を徹して並ぶ人々のために用意されたものだ。
彼らが追い求めるのは、有名な「パピーヴァンウィンクルファミリーリザーブ」だけではない。例えばマニアが「BTAC」と略称する「バッファロートレース アンティークコレクション」はいつも人気の的。バッファロートレースの定番品「エルマー・T・リー」や「ブラントン」などの商品も入手が困難だ。他にもヘブン・ヒルの「エライジャ・クレイグ18年」、バートンの「1792シリーズ」、ウィレット蒸溜所の商品など、以前ならどこでも入手可能だったボトルが高嶺の花となっている。発売と同時に大勢の人々が殺到し、入手するにはくじ引きで運を天に任せるしかない状況なのだ。
さまざまな施策で需要に応えるバーボン業界
このような需要増大に対応しようと、各蒸溜所はさまざまな知恵を絞ってきた。昔のブランドが復刻され、新しいブランドが生まれ、特別ボトルが驚くべきペースで発売されている。
例えばブラウン・フォーマンは、「オールドフォレスター プレジデンツチョイス」や「ブラウン・フォーマン・キング・オブ・ケンタッキー」などの旧ラベルを新発売。それだけでなく、アメリカンモルトウイスキーの復活を望む消費者の声に応えて「ウッドフォードリザーブ ケンタッキーストレートモルトウイスキー」もリリースした。
またワイルドターキーは俳優のマシュー・マコノヒーとコラボして、マシューの故郷テキサスにちなんだ「ロングブランチ」を発売。さらにクラフトディスティラリーの最前線を走るケンタッキー・ピアレス蒸溜所では、ヘッドディスティラーのケイレブ・キルバーンが「シングルバレル ライ」のシリーズをリリースした。同じくクラフトディスティラリーのウィルダネストレイル蒸溜所は、初めてウイスキーを樽入りの状態で発売。プライベートバレルのセレクションは州内の酒屋にも展開されている。ルイビルの酒屋「リカーバーン」のシニアディレクターを務めるブラッド・ウィリアムズが、現在の状況について説明する。
「バーボンが成長を続けている今、酒屋の仕事にも変化がありました。あらゆるバーボン関連商品に極めて高い需要があるので、棚に並べておけば勝手に売れてしまいます。ウイスキー自体はもちろん、バーボンをテーマにしたギフトや食べ物なども飛ぶように売れるんです」
だがその反面、ケンタッキー州の酒屋は難しい問題にも直面しているという。
「年がら年中、休みなく希少なバーボンを手に入れるために手を尽くしています。品薄状態が常態化しており、限定品ボトルを入手する戦いは終わる気配もありません。お客様が欲しがっている商品をご用意できず、がっかりさせてしまうこともありますね」
もうひとつの困難といえば、ケンタッキーバーボンの消費者が予約購入に熱心であることだ。リカーバーンの得意客も例外ではない。蒸溜所から購入するシングルバレルセレクションは、予約購入ですぐに完売してしまう。
「ごく平均的なケンタッキーのバーボン消費者でも、予約購入や樽段階での購入が普通になりました。今ではバーボン初心者でも『当店のおすすめ』が狙いどころであると知っています。このようなアイテムは瞬く間に売れてしまうので、棚に出して1〜2時間で完売することも珍しくありません」
(つづく)