ラベルを読む・2【旅するウイスキー 後半/全2回】
ハンス・オフリンガによる連載、ウイスキーラベルの歴史的考察。旅にまつわるラベルを取り上げた今回、後半はザ・マッカランの「トラベルシリーズ」をご紹介する。
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何年も前、ザ・マッカランがパッケージにクルーズ船クイーン・メリー号を描いた「ザ・マッカラン サーティーズ(30年代)」を発表し、やはり旅というテーマを取り上げた。このエクスプレッションは「トラベルシリーズ」の一部で、他に車を描いたトゥエンティーズ(20年代)①、蒸気機関車のフォーティーズ(40年代)②、飛行機で表したフィフティーズ(50年代)③の3種類がある。背ラベルには詳しい説明がある④。
「トラベルシリーズ」で特に興味深い点は、それぞれが絵柄の示す10年間の典型的なフレーバーになっていることだ。事実、ザ・マッカランは貯蔵庫に相当な品揃えの古いウイスキーを寝かせているため、マスターディスティラーは実際に1920年代から50年代までのウイスキーが入っている樽をサンプリングして、そのフレーバーと芳香を再現することができた。
この4種類のエクスプレッションは、見た目以上に大きな歴史の影響を受けている。
1920年代にはスコッチウイスキー産業が概ね近代化されたため、例えばスチルの加熱方法が変わったことがスピリットに影響を及ぼしたはずだ。
1930年代後半には、ひとつにはスペイン内戦のせいでシェリーカスクが次第に入手難になった。その結果、当時のウイスキーの多くがセカンドフィルのシェリーカスクで熟成された可能性があり、バーボンカスクの場合さえあったと思う。1930年代のザ・マッカランのスタイルはおそらく今ほどスパイシーではなかった。
1940年代は、第二次大戦が蒸溜業にも重大な影響を及ぼして新たな難題が続いた。石炭と大麦は配給制だった上、樽は1、2回以上使われることもしばしばで、ピートはスチルだけでなくキルン用にも燃料として再び重要になった。ピーティでリーンな時代だった。幸運なことに一度、スタンダードのザ・マッカラン1946 を試飲する機会があったが、まさにピートだった! ザ・マッカランはいろいろな物が容易に手に入るようになった1950年代に現代風になり、今のようにバランスのとれたウイスキーになった。
嗅覚と視覚のこのちょっとした時間旅行で、再びジョン・ピアポント・モルガンのIMMが蘇ってくる。 この会社も結局は座礁した。主力のタイタニック号を失った後、同社は数回の再融資を受けなければならず、1915年に管財人の手に渡って1940年代初期までには完全に姿を消した。
モルガンは1913年に亡くなったが、その名前は金融機関「JP モルガン」に生きている。時の経過に伴い、モルガンが築き上げた組織を構成する様々な船舶会社は、他の会社と合併した。
その強力な海洋汽船たちがかつて運んだブランドはどうなったか? IMMはアメリカ国籍、ヒル・トムソン社はスコットランドで、現在のブランド所有者はフランス人。まさに旅するラベルじゃないか! ことによると、いつの日かペルノ・リカール社がこれらの古い船舶会社のラベルを復活させるかもしれない。ちょうどかつてザ・マッカランが「トラベルシリーズ」でやったように。そうなったら、私も真っ先に大陸間クルーズを予約しよう!