「カフェ式蒸溜機」を知る【後半/全2回】
竹鶴氏があえてこだわった「カフェ式蒸溜機」。後半では宮城峡蒸溜所で実際に使用されている蒸溜機の蒸溜棟をレポート。
【←前半】
宮城峡蒸溜所を訪れて、入口から一番近い施設がカフェ式連続蒸溜機の蒸溜棟だ。通常公開していないのは、高濃度のアルコール生産施設ということで安全面での配慮をしているためだ。
見学に訪れたこの日は、蒸溜機は稼働していなかった。と言っても、この蒸溜機では一気に大量のスピリッツができるので、稼働しているのは月に数回程度。その際には1週間連続して動き続けるそうだ。
蒸溜棟の中に入り、カフェ式蒸溜機に対峙する。巨大な箱が4つ並んでいるように見えるのは、2つの塔から成る蒸溜機が2基並んでいるため。1号基は1963年に西宮に導入されたもので、2号基は一回り大きく、1966年に増設されたものだ。通常は2号機のみが稼働している。
蒸溜の過程は、まず「もろみ塔」の上部から大麦麦芽とトウモロコシの発酵液(もろみ)が注がれ、24段で仕切られている銅製の棚板の穴から下段へ徐々に下りていく。
蒸溜機の下部からは蒸気が吹き上がってきており、発酵液が上から下へと流れていく間にこの蒸気に触れ、アルコール分が気化する。気化したアルコールはまた発酵液で冷やされ、そしてまた蒸気で熱され…という過程を繰り返し、徐々にアルコール度が高まった気体が最後に液化される。この時点で60~70%程度までに精製されたスピリッツは再度「精溜塔」の中へ注がれ、同様の工程を辿る。
こちらでは42段組まれているが、連続式蒸溜機では一般的に好みのところで「抜き取り」が可能。つまり「このあたりでちょうど良いスピリッツが出来ている」と思ったら、そこから抜き取ればよい。通常32段くらいのところで抜き取り94~95%のニューメイクが完成する。
こうしてつくられた宮城峡のグレーンスピリッツは、モルト同様、樽に詰められて熟成され、原料由来のコクとまろやかさを持ち合わせた、リッチなグレーンウイスキーとなる。
更に宮城峡ではこのほかにも、独特なウイスキーをつくっている…「カフェモルト」だ。通常、原価の高い大麦麦芽を連続式蒸溜機で蒸溜することは少ない。
しかし宮城峡では、原酒の幅を出すためにノンピートのモルト原酒もこのカフェ式蒸溜機でつくっている。蒸溜に際しては、大麦麦芽の発酵液のほうがトウモロコシより油分が少ないので泡立ちが多い。そのため、モルトの蒸溜の場合はさらに熟練の技が必要とのことだ。
製品としての「カフェグレーン」は、2012年、日本より先にヨーロッパで発売された。ヨーロッパに幅広い販売網を持つ「メゾン・ド・ウイスキー」に登場したジャパニーズグレーンは、スコットランドでもほとんど稼働していないというカフェ式蒸溜機でつくられたという興味深さも相まって、好意的に迎えられた。そのボトルデザインはWWAのデザイン部門である「ワールド・ウイスキー・デザイン・アワード 2013」において、グレーンウイスキー部門で最高賞を受賞。また、中味も評価され、同年のWWAにて「ジャパニーズベスト・グレーンウイスキー」も獲得している。
味わいは柔らかく滑らか。しっかりと樽を焼いたバニラ香が感じられながらも軽やかで、クリームブリュレのようなクリーミーさと甘苦さ。ストレートでは極上のデザートのようなフレーバーだが、加水すると華やかなアロマを解き放ち、ハイボールにしてもバランスを崩すことがない。ブレンデッドウイスキーをつくるための素材と思うなかれ…そのリッチな風味には誰もが驚くはずだ。
そして「カフェモルト」も2013年6月にヨーロッパで先行発売(日本では同年12月)されて以来、注目を集めている。その味わいとともに、前述の通り、モルトを連続式蒸溜機(しかもカフェ式)で蒸溜することはめったにないという理由もある。
味わってみると、宮城峡モルトのスムースさは共通しているが、軽快さが際立つ。しかしフルーティでまろやか。柔らかな樽香とともにモルティな甘さ。磨き抜かれたつややかなウイスキーという印象だ。ぜひ通常のシングルモルトと比較して楽しんでみてほしい。
実際にこの「カフェグレーン」や「カフェモルト」を味わってみると、竹鶴氏が最新式設備を備えた第二の蒸溜所の構想を描きながらも、あえて旧式の「カフェ式蒸溜機」を導入した理由が見えてくる。そして設置から50年以上経った今も、当時と変わらない風味豊かな原酒を生み出していることに感銘を受けるだろう。宮城峡では、連続式蒸溜機という工業機械然とした見た目とは裏腹に、熟練の技術者の操作技術や蒸溜過程の見極めが必要な、繊細なウイスキーづくりが行われていた。
ニッカのブレンデッドウイスキーを味わうとき、ぜひこのカフェ式蒸溜機のことも思い出してほしい…竹鶴氏の徹底した「本物志向」のこだわりを感じていただけることと思う。