ニッカウヰスキー宮城峡蒸溜所の50年【前半/全2回】

March 4, 2019

日本で本物のウイスキーをつくりたい。竹鶴政孝による最後の大事業となったニッカウヰスキー宮城峡蒸溜所が、操業開始から50年を迎える。仙台市青葉区の蒸溜所を訪ねて半世紀を振り返り、次の50年へ想いを馳せる2回シリーズ。

文:WMJ

 

仙台駅を出発した車は、早春の広瀬川を遡るように内陸へと進む。車窓から見える美しい雪山は、山形県境に聳える大東岳だ。ゴリラの横顔にも似た鎌倉山の手前で道を折れると、橋の下に新川の清流が見えた。

ニッカウヰスキー宮城峡蒸溜所が、この場所でウイスキーづくりを始めたのは今から50年前のことだ。

日本で本物のウイスキーをつくりたいという大きな夢を抱き、1918年に24歳で単身スコットランドへ渡った竹鶴政孝。約2年の留学でひたむきに技術と知識を集積しながら、次のような感想を綴っている。

力強い余市とは異なり、華やかで芳醇な香りを目指したバルジ型のポットスチル。造り酒屋出身の竹鶴政孝がしめ縄を巻かせた。

「ウイスキーのことを知れば知るほど、風土そのものがウイスキーをつくるというこの地方の思想がわかり始めてきていた。ウイスキーが自然の条件のもとでゆっくり時間をかけて熟成を続けてゆく様子は、神秘というほかはないのである」(自伝『ウイスキーと私』より抜粋)

ウイスキーは自然がつくる。これは竹鶴政孝の一貫した信念となった。

帰国後、理想のウイスキーづくりを追い求めた竹鶴政孝の人生はNHK連続テレビ小説『マッサン』でも有名だ。最初に探し当てた運命の地は余市。スコットランドのハイランドに似た気候条件のなか、妻のリタと暮らしながら重厚な味わいのウイスキーをつくった。1964年にはカフェ式連続式蒸溜機の導入によって良質なグレーンウイスキーを生産し、高品質なブレンデッドウイスキーでさらに大きく前進した。

この時点で齢70を超えていた竹鶴政孝は、品質向上のために残された最後の大事業へと意欲を見せる。それは余市と異なるローランドタイプのモルト原酒をつくることだった。

 

運命の地との出会い

 

国内で複数のモルトウイスキー蒸溜所を運営するという夢の実現を後押ししてくれたのは、息子の威だったという。新しい蒸溜所の候補地は、いくつかの条件を満たす必要があった。冷涼であっても、余市よりは温暖であること。湿潤な気候、清涼な空気、そして何よりも良質な水に恵まれていること。自然環境を大切に考える以上、田んぼを潰したり森林を伐採したりするような場所は選べなかった。

やがて候補は東北南部に絞られ、竹鶴政孝はここ作並の地にたどり着く。余市とは明確に異なる気候条件があり、広瀬川と新川の清流が交わる場所だ。新川の水を汲んでブラックニッカを割り、ひと口飲んだ竹鶴は即座に宣言した。

「実に素晴らしい水だ。ここに決めたぞ」

ジャパニーズウイスキーのルーツを築いた通称「竹鶴ノート」の一部。宮城峡蒸溜所で開催中の特別企画展でも複製が展示されている。

約17万㎡の土地を取得し、着工したのが1968年3月のこと。建設にあたっては樹木の伐採を最小限にとどめ、周囲の緑に映える赤いレンガ色で建物を統一した。余市とは異なるタイプのモルト原酒をつくるため、当時はまだ珍しかったガスによる蒸気間接蒸溜を採用。コンピューター制御の製造工程も取り入れて、何十年も先の未来を見据えた。

念願の新蒸溜所は、1969年5月10日に竣工。最初のテスト蒸溜を終え、竹鶴政孝は従業員全員を集めて「ファーストドロップ」をテイスティングした。原酒を口に含んだ瞬間、政孝は思わず「違うな」と呟く。「不満足な出来なのか」とうなだれる従業員。だが竹鶴は、すぐに付け加えた。

「これでいいんだ。北海道と違うからいい。これはおれがつくったのではない。この土地がつくってくれたものだ。感謝を込めて、この酒を新川に注いできてくれ」

 

世界でも珍しいモルト&グレーンの生産拠点

 

宮城峡蒸溜所の大きな転機は、竹鶴政孝の没後にも訪れた。西宮にあったグレーンウイスキー製造設備が宮城峡蒸溜所へ移設され、1999年9月より本格的に稼働し始めた。これによって宮城峡蒸溜所は、モルトウイスキーとグレーンウイスキーの両方を製造する世界でもあまり例のないウイスキー工場となったのである。

宮城峡蒸溜所のカフェ式連続蒸溜機でつくられる「カフェグレーン」は様々な商品に用いられ、ニッカウヰスキー全体の品質向上にも寄与してきた。特に1970年に発売した新「スーパーニッカ」は、長年貯蔵した芳醇良質のモルトと、貯蔵熟成したカフェグレーンのブレンドで高級スコッチウイスキーと同等の品質を実現。現在もカフェグレーンはニッカウヰスキーの全ブレンデッドウイスキーに使用されており、ニッカらしい味わいの基盤となっている。

鎌倉山を借景にして、坂の傾斜もそのまま。自然の地形を生かした蒸溜所設計に「ウイスキーは自然がつくる」と考える竹鶴政孝の美意識が感じられる

モルトウイスキーに比べて控えめに思えても、グレーンウイスキーが無個性のものであってはならない。モルトが華やかな花なら、カフェグレーンはカスミ草。カフェグレーンがモルトを包み込んで、ブレンデッドウイスキーという花束となる。そんな竹鶴の信念は、今でも世界のウイスキーファンに届けられている。

2017年に新設された宮城峡蒸溜所のビジターセンターでは、50周年特別企画展「A traveler of whisky 竹鶴政孝が目指した理想のウイスキーと、その到達点としての宮城峡蒸溜所」が開催中である。蒸溜所設立にまつわる物語を、竹鶴政孝自身の言葉を引用しながら振り返った展示だ。

宮城峡蒸溜所の建設によって、さらなる高みを目指した竹鶴政孝。その夢は今でもこの地で成長を続けている。
(つづく)

 

シングルモルト宮城峡
リミテッドエディション2019

シングルモルト余市
リミテッドエディション2019

アルコール分:48%
容量:瓶700ml
発売日:2019年3月12日(火)
価格:オープン価格(参考小売価格:税別各300,000円)
販売数量:各700本

 

ニッカウヰスキー宮城峡蒸溜所設立50周年の公式サイトはこちらから。

 

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