パッケージで商品の価値を主張する際には、環境負荷などの倫理面も考慮すべきである。だが消費されるまでのライフサイクルが長い高級ウイスキーには、一般の酒類とは異なった考え方も適用される。

文:ヤーコポ・マッツェオ

 
イヴァン・ヴェンコフは、高級酒や高級飲料のパッケージ制作を専門とするスロバキア在住の彫刻家兼デザイナーだ。投資対象としてのウイスキーの魅力の高まりが、液体そのものの価値に見合ったパッケージの需要を後押ししていると分析している。

「人々は投資として超高級スピリッツを購入します。以前は非常に古い蒸溜酒を従来型の容器に入れて高値で売ることができましたが、今では各ブランドがその価値について繊細な配慮をするようになりました。全体的な傾向として、高級なパッケージはスピリッツの希少性にマッチしたものになっています」

例えば「ブラック・ボウモアBD5 1964」のパッケージには、ジェームズ・ボンドで有名なアストンマーティンの伝説的モデル「DB5」の本物のピストンが組み込まれている。このウイスキーは当初わずか25本のみがリリースされ、発売時の価格は1本約50,000ポンド(約930万円)だった。それから3年が経ち、ボトルの価値は少なくとも3倍に跳ね上がっている。

「高級スピリッツを買う人が、必ずしも消費を目的としている訳ではありません。美術品と同じような投資だと考えれば、価値も上がっていく必要があります。もし人々がその液体を消費することを選んだとしても、そのボトルは飲み物としてだけでなく、飾っておける家具の一部としても生き続けるのです」

他の酒類のパッケージと同様に、ウイスキーのパッケージも環境への負荷が問題となる。ウイスキーのボトルは、酒類全体の二酸化炭素排出量に占める割合が比較的小さい。製品のカーボンフットプリントの算出を支援するカーボンクラウド社のCEOを務めるダビッド・ブリンゲルソンは、パッケージの環境負荷は内容物の二酸化炭素排出量に比例すると説明している。

「包装が製品の二酸化炭素排出量にどの程度影響するかは、製品によって大きく異なります。例えば、牛肉は非常に二酸化炭素排出量が多いので、包装の二酸化炭素排出量への影響は鶏肉よりも相対的に下回ります。その一方で、ボトル入り天然水は製造時の二酸化炭素排出量がかなり少ないものの、プラスチックで包装されて販売される数量が膨大になるため、環境への視点からは本質的にパッケージを売っている製品であると考えることもできます」

ウイスキーはビールやワインよりもアルコール度数が高く、それだけ多くの原料を必要とします。ウイスキーにはワインのブドウよりも多くの穀物が必要なので、内容物の二酸化炭素排出量は多い。そのため重くて厚いボトルに詰めても、ビールやワインほどは相対的な二酸化炭素排出量に影響しないのだとブリンゲルソンは説明する。

牛肉と同様に、ウイスキーも生産工程で二酸化炭素排出量が多い。そのためパッケージが環境に与える影響は、生産工程全体の二酸化炭素排出量に占める割合が比較的小さいという理屈だ。
 

中身の価値を代弁する

 
直感に反する説明かもしれないが、より重くて精巧な包装を施された高級ウイスキーは、生産量の多い安価なウイスキーより環境コストが下回る可能性がある。極めて限られた数量しか生産されないという側面はもちろん、芸術作品としてデザインされたパッケージは従来型のボトルとは異なる機能を獲得するからだ。

このようなパッケージが飲用体験の不可欠な一部となることで、商品の寿命が大幅に延びるのだとイヴァン・ヴェンコフは説明する。

ジェームズ・ボンドのアストンマーティンとコラボした「ブラック・ボウモアBD5 1964」のパッケージは重厚そのもの。メイン写真は、マッカランとベントレーが両社の企業理念を素材に込めた「マッカラン・ホライズン」。

「高価な蒸溜酒は、主に家で飾るために買われます。投資として買うと言う人もいるかもしれませんが、豪華なデザインのボトルに詰められているのは、そういったオブジェとしての体験を高めるため。人々はそのような体験を含む価値のために高いお金を払うことを厭わないのです」

ワインボトルやビール缶が開封後すぐに廃棄されるのとは異なり、装飾が施されたウイスキーのデキャンタや貴重な限定ボトルは、陳列棚やバックバーの特別な場所に長期間にわたって保管されることが多い。

このように目立つ場所にずっと陳列されることで、そのデザインの重要性とインパクトが増し、パッケージは単なる容器以上の存在となる。このような意図で製作されたパッケージは、本質的に装飾品なのだ。

ロンドンのデザイン会社「ヌード・ブランド・クリエイション」のマネージングパートナーを務めるトム・ハーンは説明する。

「他のカテゴリーの酒類は、冷蔵庫や食器棚に保管されることが多く、飲むまでずっと見えない場所に置かれます。でもウイスキーの場合、特に高級品であるほどパッケージが持つ相互作用や視覚的な効果がはるかに大きくなります」

ウイスキーのパッケージは、ビールやワインよりも機能的な役割を果たすのだとハーンは言う。

「ウイスキーなどの飲み物を並べるキャビネットは、そのボトルデザインが目に見えるように造られています。人がいる場所やバーでは、そのような場所に並べられたボトルが、いつも客の眼前に引き出されているような状況になっています。だからこそパッケージは、購入してから消費するまでの全経験の中心にあるのです」

ウイスキーの真の価値が、液体そのものにあるのは間違いない。だがユニークなデザインの容器で、そのような価値を引き立てることにも意味がある。コレクターズアイテムとしてデザインされた容器は、全体的な体験の不可欠な一部となり、愛好家のウイスキーに対する認識を劇的に再定義できるからだ。

ウイスキー製造に携わる職人技を紹介し、その記憶を保存しながらスピリッツの本質を捉える。その儚さと有限性を強調することで、希少性を具体的に証明するのが優れたパッケージの役割だ。