スペイサイド― 命の水の心臓部を行く【全2回・前編】
ジョエル・ハリソンがウイスキーづくりの象徴ともいうべきスペイサイドを探訪。
スペイ川はスコッチ産業の肺動脈だ。スコットランド最大のウイスキー製造地域、スペイサイドの心臓部に血液、すなわち水を送り込む。この水、「アクア」は歳月を経た蒸溜所に入り、大麦、酵母、熱、そして銅だけを利用して命の水、「アクア・ヴィタエ」というスーパーヒーローに変身する。
オーク樽でまどろんで力を蓄えたこの生命、すなわちスピリッツが、ウイスキーとして姿を現す。それもただのウイスキーではなく、スペイサイドのウイスキーとして。
アバディーンとインバネスの間にひっそりとたたずむスペイサイドには、数多くの蒸溜所が軒を連ね、グレンフィディック、ザ・グレンリベット、ザ・マッカラン、クラガンモアなどのよく知られた名前に加えて、タムナヴーリンやトーモアといったあまり聞き慣れない名前も隣り合って並んでいる。要するに、ここは蒸溜の母体であり、熱心なスコッチウイスキーのファンであれば一度は訪れたい聖地なのだ。
スペイサイド周辺を旅すると、1800年代の中期から後期にかけて、この産業が実にどれほど盛んだったかがよく分かる。広い谷の窪み、あるいは単に水源の近くなど見つけにくい場所に慎重に隠された多くの蒸溜所は、忠実な顧客のためにせっせとスピリッツをつくることと同じくらい国王の収税吏から逃れることが重要だった何世紀も前にさかのぼる。
したがって、このウイスキーの中心地への旅を計画しているのなら、訪れたいと思っている蒸溜所の多くが簡単には行けないような場所にあることに注意しよう。鉄道の駅の近くはもちろん、町の中でさえ蒸溜所はめったにない。
大通りを思わせるような水路のある場所を探すとすると、キースかダフタウンが最適だ。キースは専用の水車まで完備した実に美しいストラスアイラ蒸溜所のある魅力的な街。ダフタウンは1817年にジェームズ・ダフが築いた居心地の良い街で、スペイサイドの、さらにおそらくはスコットランドの、ウイスキーの故郷と考えて間違いない。
1823年に最初に建てられたモートラック蒸溜所をはじめ元々この町を取り巻いていた7つの蒸溜所(モートラック、グレンフィディック、ザ・バルヴェニー、コンヴァルモア、パークモア、ダフタウン、グレンドュラン)を指して、「ローマは7つの丘(ヒル)の上につくられ、ダフタウンは7つのスチルの上に立っている」と言われる。
悲しいことにコンヴァルモアとパークモアはもうないが、1970年代にピティヴィアック蒸溜所とアルタナベーン蒸溜所が、そして最近では1990年代にキニンヴィ蒸溜所が加わってメンバーは増えた。
(後編に続く)