ウェールズ特集の最終回は、さらに個性豊かな4軒の蒸溜所を紹介。王室御用達の伝統を受け継ぎながらも、それぞれまったく新しい未来を思考するウイスキーメーカーたちに注目だ。

文:イェンス・トルストルップ

 

コールズ蒸溜所
Coles Distillery

 
コールズ蒸溜所の設立は2012年。コールズという名称は、蒸溜所を設立して運営しているコール家からとっている。カーマーゼンシャーのランダログで、14世紀から営業されているパブ「ホワイトハートイン」の敷地内にウイスキーの生産施設がある。

歴史あるパブを運営する一家が、ウイスキーづくりも始めた。メイン写真はコールズ蒸溜所から見渡せる田園風景。

パブの店内に足を踏み入れると、ウェールズ訛りで高らかな歌声が響く。コール家の人々は、みな大らかで温かい人柄だ。

パブはオーナーも従業員もコール家が家族総出で運営しているが、ウイスキー製造の担当はマーカスとカイン。カインはエンジニアであり発明家でもある。蒸溜所用に容量2,500リットルのスチルをみずから設計製造し、このスチルから年間365,000リットルのスピリッツが生産できる(ただし実際に生産している量はもっと少ない)。

ステンレススチール製のスチルは、20枚の銅板を使用したコラムスチルにポットスチルをつなげた設備だ。硫黄臭を確実に除去し、度数89%という高いカットポイントに到達できる仕組みである。クリーンなスピリッツは、まさにウェールズらしい軽やかな個性を持っている。

いわゆるサイレントモルトではないが、静かな香味のモルトスピリッツであり、間違いなくお勧めできる繊細さを備えたモルトウイスキーといえる。
 

アングルシーモーン蒸溜所
Anglesey Môn Distillery

 
アングルシーモーン蒸溜所は、ウェールズ最小の蒸溜所である。だがその外観は、一見して蒸溜所のようには見えない。ダフィド・トーマスが2017年に設立したティンプル農場には、それとわかる蒸溜所らしさがまるでない。そもそも蒸溜所の看板すらないのである。

アングルシーで最も起業家精神に溢れた人物といわれるトーマスは、農場の敷地内にある地下水源から採水して、ミネラルウォーターをボトリングする会社も経営している。

アングルシーモーン蒸溜所には、容量28リットルのステンレススチール製スチルと銅製ドーム型スチルが合計8基ある。原料は大麦麦芽と未製麦の小麦を組み合わせ、度数65%のニューメイクスピリッツが蒸溜される。このニューメイクは加水後に樽入れされるが、度数44%まで度数を落とす点がウェルシュウイスキーとして異例だ。

アングルシーモーンは、ウェールズのウイスキー蒸溜所で唯一ウェルシュウイスキー機構の設立グループに属していない。だが現在、機構の創設グループが彼らに加盟を呼びかけているところだ。樽入れ時の度数が低く、原料に小麦を使用しており、熟成期間もウェルシュウイスキーの一般的なアプローチとは異なる。そのためシングルモルト・ウェルシュウィスキーには該当しないだろう。それでもウェールズ国内でつくられているのだから、ウェルシュウイスキーであることは間違いない。
 

アバーフォールズ蒸溜所
Aber Falls Distillery

 
アバーフォールズ蒸溜所の外観はスコットランド風で、スコットランド製の銅製ポットスチルが導入されている。だが2017年から蒸溜所が運営されている場所は、ランフェアフェチャン近郊のアバーグウィングレギン。地名からして、これ以上ないほどウェールズ的だ。

生産工程はスコッチウイスキーに近く、しっかりとした味わいにも定評があるアバーフォールズ。それでもウェルシュウイスキーのカテゴリー隆盛に当初から力を注いでいる。

地名だけではない。アバーフォールズ蒸溜所はウェールズ産の大麦のみを使用するなど、シングルモルト・ウェルシュウイスキーの条件にも定められていない独自ルールも自主的に守っている。

アバーフォールズの銅製ポットスチルには、銅製のポットコンデンサーが取り付けられている。これはラインアームの先端に取り付けるステンレス製コンデンサーに移行することも可能だが、実際にはまだほとんど使用されていない。他のウェールズ蒸溜所と合意したウェルシュウイスキーらしい「軽やかな酒質」ではなく、むしろ重厚なスピリッツを製造する際に使用される設備だ。

蒸溜は2回で、度数は70〜63%でカット。樽入れ時のニューメイクスピリッツは度数63.5%だ。蒸溜所の所在地はメナイ海峡にも近く、爽やかな海風が吹きぬける熟成環境に恵まれている。

まだ酒齢は若いものの、味わいの深み、複雑さ、バランスなどに大きな潜在力を感じさせる。ブラインドテイスティングで比較しても、アイルランドやスコットランドなどの近隣国でつくられたリーズナブルな価格帯のシングルモルトに引けを取ることはないだろう。
 

イン・ザ・ウェルシュ・ウィンド蒸溜所
In The Welsh Wind Distillery

 
イン・ザ・ウェルシュ・ウィンド蒸溜所は、2018年にエレン・ウェイクラムとアレックス・ジャングメアーが設立した。場所はカーディガン郊外のひなびたパブである。

名前も製造工程も極めてユニークなイン・ザ・ウェルシュ・ウィンド蒸溜所。ヘッドディスティラーを務めるのはフィオン・ルイスだ。

原料の大麦はすべて地元の農場から仕入れ、チーズ製造用のトラフを流用した巧みな手法によって蒸溜所内で製麦する。製麦後の大麦は乾燥されない。湿った青い麦芽は通常のミルで粉砕できないため、代わりに肉挽き機が使用される。

このように風変わりな製造工程を経て、挽かれた大麦は容量5,000リットルのiStillに充填される。このiStillはサイコロ型で、マッシュタン(糖化槽)、ウォッシュバック(発酵槽)、スチル(蒸溜器)としても使用される未来志向の設備。ウェルシュウイスキーらしい軽やかな酒質を実現するため、イン・ザ・ウェルシュ・ウィンド蒸溜所ではネックに銅管を設置した。

この蒸溜所は設立から間もないため、まだウイスキーを市販していない。それでも訪問客にニューメイクを試飲させてくれることがまれにある。

ミドルカットは度数82〜78%で、優美な味わいのスピリッツを生み出す。起業家精神あふれる独創的な生産工程や、度数高めでカットするスピリッツの香味が、繊細なフレーバーに結実している。