何世代ものウイスキーファンが、豊かな旅路の始まりに選んできた定番ブランドたち。スコッチを語る上で欠かせないブレンデッドウイスキーの基礎知識をおさらいしよう。

文:ティス・クラバースティン

 

フェイマスグラウス

 

フェイマスグラウス

地球上に実在するかはさておき、スコットランドの正式な国獣はユニコーンということになっている。だがスコットランドを象徴する動物として、真っ先に雷鳥(グラウス)を連想する人は多いだろう。だから雷鳥がスコットランドの国獣だと多くの人々が勘違いするのも仕方ない。セントラルベルトの都市部を除けば、雷鳥はスコットランドのほぼ全域に生息している。

そしてフェイマスグラウスというウイスキーも、国中の酒場や酒棚にもれなく生息している。スコットランドで最も人気のあるウイスキーといえばフェイマスグラウス。少なくともスコットランドで最も売れているウイスキーは、今でもフェイマスグラウスだ。オリジナルのロゴは、創業者マシュー・グローグの愛娘であるフィリッパ・グローグがデザインしたもの。オリジナルのフェイマスグラウスだけでなく、ピート香の強い「スモーキーブラック」、シェリー香の強い「フェイマスワン」などの進化した雷鳥たちも人気を博している。
 
 

カティサーク

 

カティサーク

カティサークは、特にアメリカで古くから愛されてきたブレンデッドスコッチウイスキーのブランドだ。その背景には、ちょっと面白い事情がある。アメリカの禁酒法が真っ盛りの1920年代に、アメリカのウイスキー愛飲家をターゲットにしたブランドを立ち上げるのは狂気の沙汰だ。しかしそんな非常識なビジネスが成功し、カティーサークは20世紀におけるウイスキー業界で屈指のサクセスストーリーを語り継ぐことになる。

ベリー・ブラザーズ&ラッドは、当時からロンドンを拠点とするボトラー兼小売業者だった。同業者のほとんどが見過ごしていた商機を見出し、1923年3月23日にカティサークを発売。アメリカの愛飲家たちにアピールするため、あえて香味の軽いブレンデッドスコッチウイスキーを売り出した。カティサークをアメリカに密輸したのは、悪名高いラム酒密売人のビル・マッコイといわれている。カティサークが成功したのは、新参のブランドだったからだ。ホワイトホース、ジョニーウォーカー、ブラック&ホワイトなどの有名ブランドは、劣悪な密造酒をボトルに詰め替えにくくて敬遠されたのだ。そして1933年に禁酒法が廃止される頃、もうカティーサークは定番ブランドとしての地位を確立していた。

現在のカティーサークは、グレン・ターナー社(フランスのラ・マルティニケーズ社の子会社)が所有している。軽快で親しみやすい風味の「カティーサーク オリジナル」だけでなく、ブランドのルーツにちなんだ「プロヒビション」(禁酒法の意味)をはじめ多彩なウイスキーがある。大胆な黄色のラベルは、印刷ミスから生まれたもの。だが100年経った今も、重要なトレードマークとして受け継がれている。
 
 

デュワーズ

 

デュワーズ

古い手法が、もっとも新しい手法を生み出すことがある。マスターブレンダーのAJ・キャメロンが、デュワーズで初めてダブルエイジング製法を導入したのは1890年のこと。当時はまだ創業者の息子であるトミー・アレクサンダーとジョン・アレクサンダーがデュワーズを率いていた。そして現在のマスターブレンダーであるステファニー・マクラウドも、この古き良き二重熟成をデュワーズのシンボルとして謳っている。

さらに2019年、マクラウドは4段階の熟成工程を謳うプレミアムレンジの「ダブルダブル」シリーズを発売。これは「究極の滑らかさ」を目指して二重熟成をさらに進化させたものである。定番の「デュワーズ ホワイトラベル」は、125年前に誕生した主力商品。近年はラム、ポート、メスカル、カルバドス、ミズナラ樽をフィニッシュに使用するなど、冒険的な熟成感をプラスした新ボトルも多数発売している。
 
 

ジョニーウォーカー

 

ジョニーウォーカー

初心者向けのブレンデッドウイスキーを紹介する記事で、ジョニーウォーカーを無視する訳にはいかないだろう。スコッチウイスキーで最大の売り上げを誇り、バーや酒屋やスーパーマーケットなど、およそウイスキーを売っている場所ならどこでも手に入る大人気ブランドだ。スコッチウイスキーといえば、真っ先にジョニーウォーカーを連想する人も少なくない。

アレキサンダー・ウォーカーが「オールド ハイランド ウイスキー」として1867年に発売し、今ではレッド、ブラック、グリーン、ゴールド、ブルーなどに色分けされたラベルがおなじみ。スマートなポップカルチャーとのコラボや、エディンバラの人気施設「ジョニーウォーカー・プリンセスストリート・エクスペリエンス」の人気によって、ジョニーウォーカーはさらに知名度を高めている。

親会社であるディアジオ社は、大ヒットしたテレビ番組「ゲーム・オブ・スローンズ」の特別限定ウイスキーも発売して大成功を収めた。このシリーズは「ホワイトウォーカー」や「ソングオブアイス」などの限定版ジョニーウォーカーにも発展し、シングルモルトのコレクションにもインスピレーションを与えている。
 
 

シーバスリーガル

 

シーバスリーガル

伝統的なブレンデッドウイスキーは、ほとんどが飲みやすくて価格も抑えた商品によって人気を獲得してきた。そもそも大衆向けのウイスキーであり、個性的なモルトウイスキーよりも飲みやすさを重視するのが常道なのだ。しかしシーバス・ブラザーズの発想はちょっと違った。安価で飲みやすいブレンデッドウイスキーが普及する前に、高級なブレンデッドウイスキーをつくっていた歴史があるからだ。当時経済が好調だったアメリカとカナダの富裕層を対象にして、1909年に特別デザインの「シーバスリーガル25年」を発売したのがブランドの出発点となった。

その後は、他社のブレンデッドウイスキーも続々と高級市場に参入。だが高級ブレンデッドの元祖は、あくまでシーバスリーガルである。そしてシーバスリーガルは、在庫が逼迫していた第2次世界大戦中に12年熟成の商品を発売するという逆張り戦略もやってのけた。そのラグジュアリーな魅力は健在だが、今やシーバスリーガルは大衆の支持までも獲得するに至っている。