スコットランドの島めぐり【第3回/全3回】

January 18, 2018


スコットランドの島めぐりをしながら、個性的な蒸溜所を訪ね歩く。本土を遠く離れたアウター・ヘブリディーズや北方のオークニーへ。それぞれのユニークな環境が、革新的なウイスキーづくりを生み出している。

文:クリストファー・コーツ

 

スカイ島北部の港街であるウイグから、カルマックのフェリーで次の目的地へと向かおう。双子島のハリス島とルイス島だ。ハリス島は、ルイス島の南部と一体化している。2つの島は浅瀬を埋め立てた土手道で繋がっているのだ。

ハリス島の原住民は「ヒーラック」と呼ばれている。北部には険しい山々がそびえ、タランセイ島を対岸に望む南部のラスケンタイアには息を呑むほど美しい砂浜がある。約5km続く白砂のスカリスタ海岸からは遠くセントキルダ島も望めるが、残念ながらあの島には蒸溜所がない。港町のターバートではターバート西湖とターバート東湖が狭い地峡で隔てられており、この地峡がハリス島の北部と南部を分けている。

ターバートには、高級なハリスツイードの店と新興の蒸溜所がある。アイル・オブ・ハリス蒸溜所は、8年がかりの計画が実って2015年後半に開業。アウター・ヘブリディーズで初めてとなる商業規模の蒸溜所(純アルコール換算で年間230,000L)だ。「ソーシャルな蒸溜所」としても知られ、高品質なシングルモルトウイスキーとジンをつくるだけでなく、雇用を創出して地元経済を活性化しながらハリス島のスピリッツとアイデンティティを世界に広めることを目的としている。この先10年で、このブランドの成長が来島者を引き寄せ、ハリス島ならではの体験が人気を博することになるかもしれない。蒸溜所のシングルモルトはスコッチウイスキーとして販売が許される最低熟成年の3年に達していないが、「アイル・オブ・ハリス・ジン」なら購入できる。このジンはハリス島特有のボタニカルをミックスしてつくられており、地元で穫れたシュガーケルプ(昆布)も主要原料のひとつとして含まれている点がユニークである。

ルイス島でにも蒸溜所が1軒あるが、こちらはだいぶ規模も小さく、生産量は純アルコール換算で年間20,000Lだ。アビンジャラク蒸溜所は、アウター・ヘブリディーズで200年ぶりの合法的な蒸溜所だ。2008年に蒸溜所を創設したオーナーのマーク・テイバーンは、スチルの設計製造を自力で賄った。2015年の時点で、蒸溜所が生産するスピリッツの原料大麦はすべて島内で栽培したもの。熟成された製品も発売されているが、非常に希少で入手が困難だ。だがそんな状況もそろそろ変わるかもしれない。2018年には創業年に生産したスピリッツが10年を迎えるため、何らかのボトルが発売されるはずだ。

ここからアウター・ヘブリディーズの背骨を伝ってバラ島に行ってみたいと考える旅好きもいるだろう。ここでもモルトウイスキーの蒸溜所が建設される噂は絶えなかったが、まだ何も具体的な形にはなっていない。「アイル・オブ・バラ・ジン」(プロデュースしたロンドンの蒸溜家は匿名)を発売したマイケル・モリソンとケイティー・モリソンの夫婦が、バラ島産のウイスキー生産への道筋をつけるかもしれないが、まだまだ時間はかかりそうだ。

 

アウター・ヘブリディーズに別れを告げ、荒波の彼方オークニーへ

 

ストーノウェイ(ルイス島)を経由して本土のウラプール(ロスシャイア)へ。次の目的地へと渡る起点は、ブリテン島の北部に延びるA9の先にある。 時化がちなペントランド海峡を通ってオークニー諸島へ行くには、スクラブスターからストロムネスに渡る方法(ノースリンク・フェリーズ)とギルズベイからサウスロナルドセーに渡る方法(ペントランド・フェリー)がある。

島興し事業の一環で設立されたアイル・オブ・ハリス蒸溜所は、ハリス島のターバートにある。ウイスキーが待ちきれない方は、「アイル・オブ・ハリス・ジン」をどうぞ。

オークニーの群島はアイラ島とジュラ島とあわせたぐらいの総面積だが、広範囲に広がった島々には面積以上のインパクトがある。その主役は歴史、自然、ウイスキーだ。 まずは新石器時代のオークニーを伝える石室の墓、2つのストーンサークル、石器時代の村を訪ねてみよう。ユネスコ世界遺産にも登録された古きオークニーの心臓部である。

オークニーの本島と呼ぶべきメインランドには、有名な2つの蒸溜所がある。スキャパ とハイランドパークだ。1885年創業のスキャパは、純アルコール換算で年間年間130万Lのスピリッツを生産している。多くはシーバス・ブラザーズのブレンデッドウイスキー用だが、オフィシャルなコアレンジのシングルモルトウイスキーもある。蒸溜所から一望できるのは、自然の良港であるスカパフロー。かつて英国大西洋艦隊が本拠地とし、軍事と商業の両方における戦略に重要な場所だ。このスキャパには、ウイスキー業界でただひとつ現役で稼働しているローモンドスチルがある。ただし熱交換用のプレートはもう使われていない。ビジターセンターが2015年にオープンしたのを機に、蒸溜所はゆっくりと表舞台で活躍するようになっている。

ハイランドパークは、近年カルト的な人気を再燃させている蒸溜所である。今では珍しくなったピートの掘り出し(ハイランドパークは英国王立鳥類保護協会とパートナーシップを組んで、ホビスタームーアの干潟を管理している)とフロアモルティングを自社内でおこない、蒸溜所にピート香のついた大麦を供給している。蒸溜所全体で使用する大麦の80%はノンピートで、ブリテン島本土から輸送されてくる。ビジターセンターマネジャーのパット・レトソンが手引きをする素晴らしいビジターセンター体験でも有名だ。蒸溜所の多彩な歴史はもちろん、オークニー諸島に根付いている魅力的な古代スカンジナビアの伝統についても知ることができる。

オークニー産のモルトウイスキーを片手に、ここで旅を終えることもできるだろう。だが地図を見ると、まだ訪ねていないスコットランドの島々が北にある。シェトランド諸島にシングルモルトウイスキーの蒸溜所はないが、英国で最北の地域にあたるウンスト島のホテル「サクサヴォード」で、スモールバッチのジン「シェトランドリール」をつくる設備がある。

オーナーのシェトランド・ディスティラリー・カンパニーは、シェトランドでボトリングしたウイスキーの販売を始めており、次の目標はポットスチルを導入してモルトウイスキーをつくることだという。

この計画が実現したら、少なくとも「スコットランド最北端の蒸溜所」をめぐるレースには終止符が打たれるだろう。この地より北でウイスキーをつくるには、石油掘削装置の上に蒸溜所を建てる以外に方法がないのだから。

 

 

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