ビールとウイスキーを分けるもの【後半/全2回】

March 22, 2016

原酒の性格に決定的な影響を与えてしまう原料選びや発酵工程で、リスクの高い実験をするのは勇気がいる。それでも古来の技法を現代に取り入れながら、新しいウイスキーのフレーバーを生み出そうとする人々が増えてきた。原料と発酵をめぐる、ウォッシュの冒険は続く。

文:テッド・ブラニング

 

アドナムスの蒸溜部長、ジョン・マッカーシー。ビールの販売低迷期に思いついた実験から、ユニークなウイスキーが生まれている。

マッシングの工程で、古来のビールづくりからヒントを得て工夫した例をもうひとつ紹介しよう。とてもささやかな作用を生み出す技法だが、「酔っぱらった鴨」の逸話から説明できる。

ブリティッシュパブの看板によく登場する、陽気な鴨の絵をご存じだろうか。この伝説の鴨たちは、現代ではもう不可能になった原因で酔っ払っている。あるときビール醸造家の妻が、発酵しきれなかった穀物を庭にばらまき、鴨たちがそれをつついて食べた。この穀物のカスはビールに浸かったままだったので、鴨はしたたかに酔っ払ったというわけである。

考えてみると、こんな状況が可能になるのは、マッシングでできたワートを別の容器(現代の発酵槽)に移さず、そのままマッシングタン(糖化槽)で発酵させたときに限られる。鴨が酔っ払っていた時代には、これ以外の方法がなかったのである。現代ではほとんど忘れられた技法だったが、ウェスターロスのロッホユー蒸溜所でウイスキーをつくるジョン・クロットワージー氏が目をつけた。マッシュタンとウォッシュバックを分けてワートを純化させる手間を省き、この18世紀の醸造技法を再発明したのである。

いにしえの醸造家たちがそうしたように、ジョンはただワートの温度が十分に下がるのを待ってからイーストを混ぜ入れる。

「バーボン蒸溜所で、この技法を実践しているところはけっこうあります。結果は素晴らしいものですよ。モルトがまだワートに残存しているので、イーストがすべての糖分を消化できて、取り出されるローワインも18~25%ではなく、45~50%というアルコール濃度になるんです」

ご存じのように、アルコール発酵はたくさん熱を発する。だから寒い日にはマッシュタンの上に手をかざして暖を取ることもできるのだ、とジョンは得意気に笑った。

 

ビール用のモルトやホップまでを使用したウイスキー

 

ジョンがおこなったユニークな発酵技法のリバイバルは遊び心に満ちている。実験の成否が3年経たないとわからないウイスキー業界で、このような冒険は容易にできるものではない。クラフトビールの醸造家や小規模なジンのメーカーなら、一見非常識な実験をやってみる余地があるだろう。でもウイスキー蒸溜所に、そのような贅沢はほとんど許されていない。

だがエデンミル蒸溜所のスコット・ファーガソン氏は、あえてビール用のモルトをいくつか原料にしてウイスキーをつくってみた。いつものゴールデンプロミス種800kgにチョコレートモルト種50kgを加えたところ、明らかな変化が生まれたのだという。長い余韻を残すモカのフレーバーが、ニューメイクに備わった。またブラウン種25kgとクリスタル種25kgを加えたところ、温かなトーストやショートブレッドのフレーバーも生まれている。

「これらのフレーバーが、熟成後もずっとウイスキーの特性として維持できることに驚きました。なぜ他の蒸溜所でも、多彩なモルトが試されていないのでしょう? この現状に驚きさえ感じています。グレンモーレンジィがチョコレートモルトを使って大成功した例もありますしね」

人気のストロングエール「ブロードサイド」を蒸溜した「スピリット・オブ・ブロードサイド」。ウイスキーとビールの深い関係が味わえそう。

モルトの品種を変える実験が、検討に値するのはわかった。それならホップはどうだろう? もちろんウォッシュにホップを加えるなんて非常識かもしれない。だがホップ入りのビールから蒸溜された「オードヴィードビエール」というアルザス産の有名なスピリッツがある。またブリュッセル近郊のメヘレンにあるヘットアンカー醸造所は、自社の看板ビール「グーデンカロルス」を蒸溜したスピリッツを商品化した。

そしてイギリスのビールブランド「アドナムス」も、自社のストロングエール「ブロードサイド」を蒸溜し、まさに“ビア・オードヴィー”と呼ぶに相応しい「スピリット・オブ・ブロードサイド」を生産しているのである。アドナムスの蒸溜部長、ジョン・マッカーシーが語る。

「醸造所を設立間もない頃は、なかなかビールも売れない時代が続いていました。だから、いっそのこと遊んでみようじゃないかと思ったんです。アドナムスのウォッシュは平均6.7%のアルコール度数。ブロードサイドのエールも同じです。それで一部を蒸溜して、1年間オーク樽に貯蔵してみました。結果は大成功。今までにない味だけど、なかなか良かった。そこでもっと遊んでみようじゃないかと考え、ライや小麦のウイスキーにも挑戦している最中です」

 

 

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