スコッチの伝統を受け継ぎながら、独自のイノベーションも見据えた生産体制。特別な場所から生まれる上質なウイスキーは、じっと熟成の完了を待っている。

文:ガヴィン・スミス

 

エイトドアーズ蒸溜所に設置されている蒸溜器は、スペイサイドで製造された容量1,700Lのウォッシュスティルと容量1,300Lのスピリットスチルである。糖化と発酵に使用される設備は、あるエディンバラのビール醸造所から調達した。

目標とする酒質について、蒸溜所長のライアン・サザーランドは次のように語っている。

「フルーティな香味を生み出すため、発酵時間は長めにして、蒸溜も低温でゆっくり加熱する方針にしました。1回のバッチから、ホグスヘッド1本分のスピリッツが蒸溜されます。ここは海が近いので、熟成中には潮の香りも自然に備わってくると思います」

もともとビール醸造所から移設した設備であることから、糖化槽には通常のマッシュタンにはない麦汁変換容器も付いている。サザーランドによると、将来的には大麦以外の穀物も使用する可能性があるようだ。また8世紀頃に北欧からの入植者が持ち込んだとされる六条大麦のひとつ「ベア大麦」を独自に栽培して、地元の共同製粉所で粉にするアイデアも検討している。

しかし、当面は堅実な経営が求められる。創業者のデレク・キャンベルは、本業が会計士なので資金計画にも余念がない。ファーストフィルのアメリカンオーク樽や、ヨーロピアンオークのオクターブ樽、クォーターカスク、ホグスヘッドなどに樽入れした原酒のストックを見守り、海風に抱かれながら熟成が完成するのを待っている。

デレク・キャンベルと共にエイトドアーズを創業した妻のケリー・キャンベルは、さらに意欲的な計画でウイスキーづくりの資金を調達しようとしている。そのひとつが、自前のスピリッツを熟成するだけではなく、外部から購入したウイスキーをエイトドアーズの貯蔵庫で熟成すること。現地の熟成環境がどれほど潮の香りを授けてくれるのかデータを取りながら、独立系ボトラーとしてウイスキーをリリースする具体的な計画まで立てている。
 

ボトリング事業も並行しながら熟成を待つ

 
ケリーは現在の状況を次のように説明する。

「オクターブ樽に入れたエイトドアーズのスピリッツは、かなり早い段階で熟成のピークに達するかもしれません。なかには5年後に完成する原酒もあるでしょう。でも焦って行動を急ぐつもりはありません。私たちには他の収入源があるので、自社のウイスキーを早くリリースしなければならないというプレッシャーも少ないのです」

他の収入源とは、さまざまなサードパーティーから購入したウイスキーだ。すでに一部の商品は現地で手作業のボトリングが進められている。最初に発売されたのは、8年熟成のスコッチブレンデッドウイスキー「セブンサンズ」。ファーストフィルのシェリー樽(ヨーロピアンオーク)熟成モルト原酒を40%使用し、さらには別のブレンデッドスコッチウイスキーを単一のホグスヘッドでも熟成した。わずか461本の数量限定商品ということもあり、あっという間に売り切れた。

エイトドアーズ蒸溜所を設立したデレク・キャンベルとケリー・キャンベルの夫妻。地元ケイスネス郡で事業を起こし、雇用を創出したいという目標も実現させている。

その後も「セブンサンズ 10年 オルトモア」と「セブンサンズ 8年 ルーアックモア」(ルーアックモアはピーテッドモルトを原料にしたグレンタレット)が少量生産された。またスコッチウイスキー、オレンジ、ジンジャー、ハチミツ、スパイスを組み合わせた「ファイブ・ウェイズ・リキュール」も発売されている。

これらの商品は、生産エリアに隣接したビジターセンターとショップで味わうことができる。ビジターセンターの立地は素晴らしく、ペントランド湾からオークニーまでを見渡せる眺望が自慢だ。ほぼ年中無休のウイスキーラウンジに腰を下ろし、ユニークなウイスキーの香味をゆっくり楽しんでみるのもいいだろう。

現地では、蒸溜所ツアー(月~金に開催)や試飲もおこなっている。ウイスキーラウンジには薪ストーブと完璧なウイスキーバーが併設され、厳選されたコーヒー、地元のトレイケーキ、カクテル、セブンサンズのウイスキーコーヒーなどが幅広く味わえる。

エイトドアーズの会員制度「874クラブ」は、蒸溜したばかりのスピリッツ250樽分を熱心な希望者に提供する主旨で創始された。初回提供分のスピリッツはわずか数日で売り切れたが、1,250名限定のコアメンバーにはまだ少々の残席があるという。874クラブの会員には、初回リリースのボトル(700ml)1本に加え、ジョン・ラムジーが厳選したファーストフィルのヨーロピアンオーク樽(特別なシーズニング済み)で熟成されたハイランドのシングルモルトウイスキー3本が届けられる。

これからのウイスキーづくりについて、ケリー・キャンベルはその決意を力強く語ってくれた。

「私たちはウイスキーを愛し、自分たちが住んでいる場所を愛しています。どこまでも続く空と、何キロも続く海岸線。スコットランド最北の地は、息を呑むような風景に囲まれた特別な場所です。この地でウイスキーをつくる私たちの夢は、もうすぐ現実のものとなります」