ベリー・ブラザーズ&ラッドがスピリッツのブランディングを刷新

July 9, 2021


ロンドンの中心地で、長年にわたって独自ボトリングの高品質なスピリッツを販売してきたベリー・ブラザーズ&ラッド。2021年夏のリリースから、新しいユニークなデザインのボトルが登場する。リザーブスピリッツマネージャーのダグ・マクアイヴァーに、ブランディングを刷新した経緯を訊ねた。

聞き手:ステファン・ヴァン・エイケン

 

スコッチウイスキーだけでなく、話題のタスマニアンモルト「ラーク」も初リリース。老舗ボトラーは、世界のファンに新しい選択肢も提供している。

英国でも屈指の歴史を誇る独立系ボトラー「ベリー・ブラザーズ&ラッド」が、今夏よりウイスキーをはじめとするスピリッツ商品のブランディングを一新した。新デザインはベリー・ブラザーズ&ラッドのスピリッツ商品全般で使用され、ラベルによって商品レンジの違いが際立つものとなっている。

エントリーレベルの商品は5種類。そのうち3種類は、特定地域を生産地とする商品だ(アイラリザーブ、アイリッシュリザーブ、スペイサイドリザーブ)。そして残りの2種類は、熟成のタイプで分類される(ピーテッドカスクマチュアード、シェリーカスクマチュアード)。

スモールバッチのグループもあり、2021年夏のリリースは「ロングモーン 2009」。シングルカスクでは、4種類のスコッチウイスキーに加えて、オーストラリアのシングルモルト「ラーク蒸溜所 2016」とガイアナ産のラム「ダイアモンド蒸溜所 2010」も顔を揃えている。

このブランド刷新プロジェクトに深く関わってきたダグ・マクアイヴァー(リザーブスピリッツマネージャーの)に、ベリー・ブラザーズ&ラッドの狙いを訊いた。

 

ベリー・ブラザーズ&ラッドのスピリッツ商品は、とてもわかりやすいボトルデザインで親しまれてきました。何十年にもわたる歴史があり、ロングセラーと呼ぶにふさわしいアイコニックなデザインともいえます。なぜ今、新しいボトルデザインを模索しようと考えたのですか?

 
ベリー・ブラザーズ&ラッドは、スコッチウイスキーなどの高級スピリッツを取り扱う独立系ボトラーとして、業界で屈指の伝統があります。しかしこれまでの歴史を振り返れば、会社のエネルギーの多くを自社で設立したカティーサークやグレンロセスなどのブランドに費やしてきました。これらのブランドを売却したことで、高品質な商品によって定評を築いていくかつての路線に戻ったのです。当社の歴史やストーリーを象徴的に伝えるため、その目的に適ったパッケージのデザインが必要ではないかと考えるようになりました。
 

これまでのボトルデザインやブランディングと比べて、新しいアプローチはどんな点が優れていますか?

 
私たちのビジネスの本拠地を象徴する17世紀のファサードが、これまでよりも明確に表現されています。これはお客様にも馴染み深いユニークなシンボルといえるでしょう。新しいラベルによる分類は、商品のカテゴリーをわかりやすく表現したもの。「クラシックレンジ」「スモールバッチリリース」「シングルカスクシリーズ」といった分類が、お客様にとって見分けやすくなっています。
 

「スモールバッチリリース」についてうかがいます。蒸溜所やビンテージ(蒸溜年)などの選択は、どのようにおこなっているのでしょうか。スモールバッチは、何本分の樽からボトリングされていますか? アルコール度数は、これまでも多かった46%と加水しないヴァッティングストレングスのどちらが主体になりますか? 年間で何種類のスモールバッチ商品が発売されるのかも教えてください。

 

シングルカスクは白、スモールバッチはオレンジで色分けされた新しいラベルデザイン。17世紀から受け継がれてきた本店のファサードがあしらわれ、ベリー・ブラザーズ&ラッドの歴史を象徴している。


シーズンごとの発売にあわせたボトリングに切り替えてから、シングルカスク商品があっという間に売り切れてしまうようになりました。そこで単一の蒸溜所のモルトウイスキーをお求めやすい価格で提供するため、「スモールバッチリリース」という形態が選ばれています。シングルカスク商品よりは販売数量を多く市場に提供できますが、バッチごとに樽3本分までという上限はあります。スモールバッチのアルコール度数については、商品の性格や価格のことを踏まえて、46%がちょうどいい度数であると考えています。現在熟成中のストックもバラエティ豊かなので、熟成状態のピークに達している原酒をチェックして、通常は年間で4つの蒸溜所を厳選する方針です。
 

「シングルカスクシリーズ」の樽を選定する品質上の基準について教えてください。貯蔵庫で樽熟成しているウイスキーは、どんなシステムでモニタリングしていますか? 熟成のピークを過ぎてしまったことがわかった原酒はどう取り扱うのですか?

 
シングルカスクのモルトウイスキーは、忍耐と根気が重要な世界です。望むような成果を達成する唯一の方法は、注意深く原酒のストックをモニタリングすること。原酒管理を委ねられているのは、ジョニー・マクミラン、ロニー・コックス、そして私自身の3人です。原酒をチェックする際には、「バランス」「複雑さ」「口当たり」の3要素に注目しています。この3要素をすべて満たしていたら、シングルカスク商品としての条件が揃った証拠。そんな熟成のピークを見過ごさないように、細心の注意を払っています。かつては熟成しすぎた原酒に出会うこともありましたが、現在そのような間違いはなくなっています。チームのメンバーたちも経験豊富で、長期熟成ウイスキーの年数よりも年上ですから。ウイスキーの熟成がピークに達して、品質が落ち始める瞬間は察知できるんですよ(笑)。
 

ファンにはおなじみのスコッチウイスキーに加えて、2021年夏のリリースには比較的新しい部類に入るタスマニアのラーク蒸溜所も選ばれています。ベリー・ブラザーズ&ラッドは、いわゆるワールドウイスキーの原酒もたくさんストックしてあるのですか?

 
ここ数年の間に、世界中のウイスキーを調達して独自に熟成しはじめました。今後も引き続き新しいチャンスを追い求め、絶えずお客様に多様なウイスキーのチョイスと新しい発見を提供したいと考えています。ウイスキーの調達に際しては、簡単な自問自答をします。このウイスキーは飲んで美味しいだろうか。お値打ちの価格で提供できるだろうか。将来の発売予定については、まだお知らせできません。ウイスキーはまだ樽内で熟成中だし、リリースごとにサプライズをご用意したいからです。面白い樽がたくさんあるので、どうぞご期待ください。
 

以前よりベリー・ブラザーズ&ラッドのシングルカスク商品には、加水なしのカスクストレングスと、度数46%のボトリングがありました。2021年夏のリリースを垣間見て、大半がカスクストレングスになるのではないという印象を持っています。同様の方針を他のすべてのシングルカスク商品に適用する予定ですか?

 
着色料やチルフィルターを使用しないカスクストレングスという形態が、ウイスキーのボトリングにおける最上の方針であると信じてきました。でもこの方針に必ずしも賛同されないお客様がいらっしゃることも理解しています。度数が高めのウイスキーは需要を伸ばしているようですが、ここはあくまでバランスが大切。ときにはウイスキー自体が最適な度数を教えてくれるため、46%で味わいのバランスがベストな場合もあります。だから今後も、樽単位で度数を決めていく方針です。
 

スコッチウイスキー協会(SWA)は、スコッチウイスキーの熟成に使用できる樽の種類を広げました。この規制緩和にあわせて、テキーラ樽、メスカル樽、カルバドス樽などの樽を後熟に使用する計画はありますか?

 
さまざまなタイプの樽によるフィニッシュ(後熟)を実験してみようという方針に変わりはありません。もしスピリッツ樽で後熟したウイスキーを期待する層がいて、それが規制で排除されないものならば、検討に値しますね。独立系ボトラーの中では、後熟の手法を採用した経験が長いほうではありません。でもこれまでの後熟商品は素晴らしい出来栄えでした。品質については特に厳しい会社なので、わずかなミスでお蔵入りとなったウイスキーもあります。良質なウイスキーは一滴も無駄にしたくないので、そんなミスがあったら泣きたくなるでしょうね(笑)。
 

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