スコッチウイスキーのメーカーは、モルトウイスキーを熟成するために大量のバーボンバレルを入手する。だがそのプロセスは多様で、熟成のアプローチもさまざまだ。

文:イアン・ウィズニウスキ

 

バーボンメーカーが、バーボンの熟成に新樽のバレルを使用できるのは1回だけ。このルールのおかげで、スコッチウイスキーのメーカーは使用済みバーボンバレルの安定した調達が可能になる。

買い付けはバーボンの蒸溜所と直接取引してもいいし、アメリカやスコットランドの樽工房を通して注文してもいい。だが後者の場合は、スコットランド側が希望するチャーレベルなどの細かいスペックまで聞き届けてもらえないこともある。このような樽の仕様は、どれくらい重要なものなのだろうか。ウィリアム・グラント&サンズのマスターブレンダー、ブライアン・キンズマン氏が語る。

「事前に入手できる情報量は、樽によって大きく異なります。有名な蒸溜所から購入するバーボンバレルの大半には、樽詰めした日付がスタンプされています。でも何か特別なプロジェクトに使用するとき以外は、樽の詳細なデータなどをそんなに必要としていません。実際の品質を確認するほうがよほど重要だからです」

詳細なデータが不要でも、購入時の条件が「ディスティラリー・ラン」と「ディスティラリー・セレクト」のどちらであるかによって樽の品質は左右する。 値段が高いのは「ディスティラリー・セレクト」の方で、これは買い手と売り手が同意したいくつかの条件を満たした樽を樽工房が選定することになっている。シーバス・ブラザーズのマスターブレンダーを務めるサンディー・ヒスロップ氏が説明する。

「諸条件のなかには、樽の実際の状態に関する条項もあります。例えば漏れの原因になるようなひび割れが側板にないこともチェック項目のひとつ。蒸溜所内では、経験豊富な担当者がすべての樽を個々にノージングで確認してから樽詰めしています。この樽も、みな年に1回の官能検査も通過していなければなりません。前に何が入っていたのかより、容器として均一な品質を維持していることのほうが重要なのです」

一方、「ディスティラリー・ラン」として購入される樽は、バーボン蒸溜所で熟成が終わって樽出しが済むと、すぐに輸送されてスコットランドに届く。ロッホローモンドグループでマスターブレンダーを務めるマイケル・ヘンリー氏が語る。

「ディスティラリー・ランで購入した樽の20〜40%は、割れた側板の交換などの補修が必要です。ディスティラリー・セレクトの補修率が約5%であることを考えると大きな違いですね。契約している樽工房がチェックして補修作業を進め、その費用を支払っています」

補修率などの品質の他に、これまで貯蔵してきたバーボンのスタイルなどはどれくらい重要な用件になるのだろうか。ゴードン&マクファイルでウイスキー供給のアソシエイトディレクターを務めるスチュアート・アークハート氏はまだ明確な答えを持っていない。

「異なるバーボンの蒸溜所から購入した樽にスピリッツを詰めて、熟成の状態を調べているところです」

同様に、バーボンを熟成していた時間の長さがどんな影響を及ぼすのかも気になるところだ。 グレンモーレンジィ蒸溜所で原酒熟成の責任者を務めるブレンダン・マキャロン氏が語る。

「もっとも重要なのは、バレルが2〜4年にわたって使用される過程で、パンチのある木の香味が樽材から排出されているということです。熟成年が長くなるほど、グレンモーレンジィの熟成時に欲しい特徴がバーボンによって引き出されてしまうということになります」

 

スピリッツに合わせてリフィル樽を使い分ける

 

スコットランドに到着するバーボンバレルの詳細情報は、樽ごとにばらつきがある。だがひとたびスコッチウイスキーの蒸溜所で使用され始めると、樽には履歴がしっかり記録されることになる。サンディー・ヒスロップ氏がその手順を教えてくれた。

「樽が届いたら鏡板にハンマーで金属のタグを打ち付け、そこに樽詰めの年月日を記します。樽がもう一度樽詰めされる際には、また新しいタグが追加されて、リフィル樽であることがわかるようになっています。このようにして、1本ごとの樽の来歴を記録しているのです」

バーボンの定義のひとつは、アメリカンオークの新樽で2年以上熟成すること。このルールのおかげで不要になった樽がスコッチウイスキーの熟成を助ける。ファーストフィルの樽もリフィルの古樽も、複雑な香味を生み出してくれる重要な要素だ。

とはいえフィルを繰り返すごとにマイルドになっていくという単純な話でもない。それぞれのフィルによってバランスに変化がもたらされる。樽の影響が増える分、蒸溜所ごとの特徴(例えばニューメイクスピリッツの個性)は後退するからだ。フィルの期間は決められていないので、セカンドフィルやサードフィルになると樽ごとの個性が大きく異なってくる。セカンドフィルやサードフィルは個々の詳細を抜きにして「リフィル樽」と総称されることも多い。

その一方、樽の影響力がどこまで及ぶかはニューメイクスピリッツの特徴によっても決まる。スピリッツが軽やかなタイプなら、樽の影響を受けやすくなるのだ。マイケル・ヘンリー氏が説明する。

「よりフルボディなタイプのグレンスコシアは、ファーストフィルのバーボン樽と相性がいい。10年以上熟成した時に、樽材とスピリッツの特性がバランスよく調和できるからです。ロッホローモンドとインチマリンは軽やかなタイプなので、リフィルのバレルで熟成したほうがうまくいきます。セカンドフィルだと背後の甘味やシナモン風味が増して、サードフィルにすれば木材からの影響がさらに穏やかになります」

ファーストフィルのバーボンバレルだけを使用しているモルトウイスキーのひとつにベンロマックがある。熟成の過程でフレーバーのプロフィールが変化していく様子を理解するのにぴったりの実例だ。ベンロマック蒸溜所長を務めるキース・クルックシャンク氏が語る。

「ベンロマックの大麦モルトは12ppmのピートで繊細なスモーク香が漂うタイプ。10年の熟成を経ると、スモークやタバコの風味を舌で味わいながら、その背後にバニラとフルーツの香りを感じさせるウイスキーになります。それが15年熟成になると、バニラがさらに濃密に押し出されてリンゴや洋ナシの香りも強まり、背後にやわらかなスモーク香が漂っているような印象に変化しますね」

蒸溜所では、実際の樽詰めのスケージュールも問題になってくる。ダルモア蒸溜所で蒸溜所長を務めるスチュアート・ロビンソン氏が語る。

「樽詰めは蒸溜所内でほとんど毎日やっているので、一定したバーボンバレルの供給が必要です。樽の到着日はプログラムのなかに組まれており、各回の配達で届く樽の本数も決まっています。船が遅れたりする場合も想定して、念のために余分な樽も用意してありますよ」

バーボンバレルの購入は、ボデガにシーズニングを依頼して詳細な品質まで注文できるシェリー樽とはかなり異なった調達プロセスになる。例外のひとつが、グレンモーレンジィのバーボンバレルだ。特別なスペックを指定した注文樽についてブレンダン・マキャロン氏が教えてくれた。

「いつも『グレンモーレンジィ・アスター』と『グレンモーレンジィ・オリジナル』にはデザイナーズ・カスクを使用しています。オーク材は、伐採された場所や空気乾燥の期間も指定済み。バレルはみな同じ樽工房で、同じ時期に、同じレベルのチャーを施してからバーボンを4年間熟成します。この4年間という長さも、我々グレンモーレンジィが指定しているんです」

 

チャーの強度で風味も変わる

 

バーボンバレルの内側にはチャー(焼き付け)が施される。裸火を数秒間当てる「レベル1」のチャーから、約1分当てて奥まで焦がすヘビーな「レベル4」まで、さまざまな強度のチャーが注文できる。ザ・マッカランでマスター・オブ・ウッドの称号を持つスチュアート・マクファーソン氏が説明する。

「たいていのバレルには、レベル3〜4のチャーが施されます。それでも樽工房によってそれぞれのチャーレベルにわずかな違いがありますね。チャーを施した樽は、スピリッツから渋みをもたらす硫黄成分などを吸収してくれます。硫黄成分の含有量を減らすことで、甘みやフルーツ香など他の軽やかな風味をスピリッツから引き出せるようになるのです」

チャーの熱は、何層にも重なっているオーク材の奥まで届く。これが樽材に含まれるバニリン(バニラ香)などの香味成分を活性化し、スピリッツを熟成する過程で好ましい風味が引き出されることになるのだとブライアン・キンズマン氏が説明する。

「チャーのレベルを上げることで、オーク材の深くまでしっかりとトーストされます。これがオーク材に含まれる風味成分をより多くニューメイクスピリッツに授けることになるのです」

このメカニズムについては、ブレンダン・マキャロン氏も別の側面から説明してくれた。

「チャーがヘビーになるほど、オークの表面は焦げて組織が破壊されます。こうすることで、トーストされた奥の層にスピリッツが触れやすくなる効果もあるのです。チャーのレベルを上げると、はるかに旺盛なバニラ、キャラメル、ハチミツなどの風味をウイスキーに加えることができますね」