キューバ産のシガーが最高級なのは、世界トップレベルの職人たちが完全な手作業で仕上げるから。この技術を継承する人材の確保が当面の課題である。

文:クリストファー・コーツ

 

キューバにおけるシガー生産は、科学的手法や農業の近代的進歩にも歩調を合わせている。だがコイーバの本拠地であるエル・ラグイート、パルタガスの新施設、さらにはオヨ・デ・モンテレイ、ポル・ララニャガ、クアバなどのシガーが巻かれるラ・コロナなどの工場を訪問してわかったことがある。

タバコの選別、下処理、ブレンド、圧延、包装などの工程は、断固として伝統的な手作業のままだ。キューバ産シガーの箱に記された「Hecho en Cuba, totalmente a mano」(キューバ製、完全手作業)という有名なキャッチフレーズに嘘はない。シガーの生産に関わる539工程(畑の準備や種まきから、バンドの装着から完成品の箱詰めまで)は、今でも職人と労働者による手作業が守られている。

キューバのシガー生産を支えるトルセドール(葉巻職人)。電気製品は一切使用しない純然たる手作業だ。メイン写真は乾燥小屋で出番を待つタバコの葉。

ウイスキーの世界でも、手づくりを自称するメーカーはたくさんある。だが実際には大量生産の工程に昔ながらの手法を残していることを指しているにすぎず、手づくりは抽象的な概念であることも多い。しかしキューバ産シガーが主張する「ハンドメイド」に関しては、文字通りの意味を信じて間違いない。

実際に、シガーを巻く職人たちが作業中に使っているテクノロジーといえば、作業のBGMを流すスマートフォンやiPodくらいのものだ。自分だけのフーモ(煙草)をふかしながら、みんなビートに合わせて頭を揺らしている。

もう一つの例外が、どんな工場でも見られるドローテスターだ。この機械の仕組みは単純である。シガーが巻かれた後、ラッパーが貼られる前に、型から外されたシガーの中心に風を通してみる。圧力計がオペレーターにシガーの通気状況を伝え、トルセドールの巻き方がちょうどよい密度であるかどうかを判定するのだ。

キューバ以外のシガーメーカーでも一般的に使用されているドローテスターだが、キューバ国内で恒常的に導入しているブランドはコイーバだけである。ドローテストを実施することで、巻きがきつすぎて空気が流れにくいシガーの割合が大幅に減る。スモーカーにとっては嬉しい品質管理だ。

しかしドローテストの実施は、見た目ほどに簡単ではない。ローラーは葉巻1本ごとに給料をもらっているため、なるべく素早く巻こうとする。同時に品質管理で検出される不良葉巻の数を減らそうとすれば、さらなる作業上の負担になる。

そしてこのドローテストは、シガーがモールドでプレスされた後、ラッパーが貼られる直前に実施される。このプロセスがローラーのワークフローを中断させてしまうのも不評だ。巷の噂では、私が訪問した時点で約700人のローラーが不足していた。工場は労働者をこれ以上苛立たせるわけにはいかないのである。
 

揺れ動く国キューバのこれから

 
米国による禁輸措置が重圧となり、揺れ動くキューバ経済はすでに苦境に立たされている。オバマ大統領の融和路線をトランプ大統領が否定し、キューバは「テロ支援国家」リストに復帰した。バイデン政権も、この再指定をまだ取り消していない。

状況はむしろ悪化している。この政策によって引き起こされる無数の問題の中でも、特に大きな問題は米国のビザだ。キューバを訪問した人は、ESTAビザ免除で米国に渡航できなくなる(ビザ申請と面接が必須)。キューバに行きたくても、このようなリスクを負いたくない人は多い。

トルセドールの作業台。葉巻職人にはグレードがあり、1本ごとに厳しい品質基準が求められる。キューバの水準は世界一だが、将来に向けた技術の保全が課題だ。

このような経済問題はコロナ禍によってさらに悪化し、最近の燃料不足も追い打ちをかけている。キューバを脱出して、南米、メキシコ、アメリカなどへ向かうキューバ人が再び増え始めた。ソ連崩壊後に起こった経済停滞を除けば、今が最も困難な時期だと多くの国民が語っている。2021年から22年にかけて、36万人以上のキューバ人が国外に脱出した。粗末な筏に乗って決死の渡航を試みた者も少なくない。

ハバナのシンボルであるマレコン広場の近くで、あるキューバ市民に出会った。彼は気さくに笑いながら、キューバ人らしい人懐っこさで言う。

「ある意味では、いつも通りの生活が続いているよ。私たちは働いているふりをして、政府は給料を払っているふりをする。昔から同じさ」

キューバでは副業を持つ人が多い。タクシー運転手が医者や研究者だったりすることは少なくないし、たくさんの国民が闇市場で商品を売買している。そんな中でも、シガー産業は別格だ。トレセドールの専門技術を身につけるには長年の訓練が必要なので、一般的に良い仕事だと考えられている。トレセドールになれば、9階級上の管理職に昇進する見込みがあると広場の市民も語った。

キューバ以外の国でも、プレミアムシガー産業が急成長している。そのためシガーを手巻きするトレセドールの技術は、ニカラグアやアメリカでさらに重宝される可能性がある。そしてキューバの国営企業ハバノスは、さらなる増産計画を目指している。このような状況からも、ローラー不足は差し迫った問題だ。

キューバ産シガーの話は、キューバの政治から完全に切り離して語ることができない。工場やオフィスの壁には、今でもフィデル・カストロの写真が大きく掲げられている。ハバナの革命博物館の外には、ソ連軍の戦車が展示されていた。この島の激動の過去は、まだ決して遠くないところにある。

フェスティバル・デル・ハバノへの旅は、実に豊かな学びの機会になった。専門家からシガーの基礎を直接学んだり、華やかなパーティーに参加したり、愛好家仲間に会ったりするだけでなく、世界と人生について深く考える時間を与えてくれたのだ。まるでシガーについて知るだけでは不十分だと、シガー自身から教わったような気分だ。

タイノ・コイーバ、スペイン人入植地、サトウキビ畑、空爆でできたクレーター。そしてもちろんキューバ産シガーから立ち上る煙の中に、事実と虚構の境界線が交錯する。一筋縄ではいかない政治、文化、歴史が織りなす神話のような集団意識。シガーと共に過ごす静かな内省の時間には、途方もない思索の豊かさがある。