バーショーで日本のクラフト最前線に出会う

May 21, 2018


5月12日と13日の2日間にわたって東京ドームシティ・プリズムホールで開催された「東京 インターナショナル バーショー 2018 ~バー ミソロジー~」。オフィシャルエグゼクティブに就任したデイヴ・ブルーム氏が、記念ボトルを味わいながら日本のクラフトブームを分析した。

文:WMJ

 

「東京 インターナショナル バーショー」は、最新のドリンクや一流バーテンダーのデモンストレーションを体験できるバー業界最大級のイベントだ。2012年にアジア初のバーショーとして開催されて以来、東京ミッドタウン、ベルサール渋谷ガーデン、東京ドームシティ・プリズムホールと会場を移しながら大きく成長を遂げてきた。

過去最多となる出展社数で開催された今回のバーショーは、イベントタイトルとロゴを変更してバージョンアップ。5月13日を「カクテルの日」と位置づけ、5月12日〜18日の「National Cocktail Week」には関連イベントやフェアが各地で盛り上がりを見せた。

このビッグイベントで、オフィシャルエグゼクティブに就任したのはデイヴ・ブルーム氏。世界的な批評家であるばかりでなく、早くからジャパニーズウイスキーの魅力を紹介してきた日本通だ。昨年出版した初めてのジャパニーズウイスキー専門書では、日本ならではのウイスキーづくりを「ウイスキー道」と称えてユニークな文化論を展開している。

会場のメインステージで人気を呼んだのは、デイヴ・ブルーム氏が記念ボトルを味わいながらつくり手と語り合うプログラム。希少なボトルのひとつが「Ichiro’s Malt CHICHIBU 2011年 ヴィンテージ ミズナラヘッズ樽」だ。トークの相手は、ベンチャーウイスキーでブランドアンバサダーを務める吉川由美氏である。

 

日本のクラフトブームを先導する秩父蒸溜所

 

日本におけるクラフトウイスキーの先駆者といえば秩父蒸溜所。革新的な試みの土台には、ジャパニーズウイスキーの伝統に対する敬意があると吉川由美氏は語った。

今年のワールド・ウイスキー・アワードでもワールドベストを手にした秩父蒸溜所は、そろそろ新興メーカーというイメージを脱却したかのようにも見える。だが吉川由美氏いわく、現地ではウイスキーづくりの試行錯誤が今日も続いているのだという。

「秩父蒸溜所は、まだまだハウススタイルを模索中です。でもハウススタイルなんて、メーカー自身が決めるものでもなく、秩父のウイスキーを飲んでくださる皆様が時間をかけて認知していくものではないでしょうか。そんな『秩父らしさ』に、いつか行き着けたらいいなと願っています」

今回の記念ボトルは、熟成に使用するアメリカンオークのホグスヘッドを自前の樽工房で加工し、ヘッド部分を新しいミズナラ材に変えたもの。樽の呼吸に合わせて、ミズナラの影響が加わってくるのだという。ユニークなアプローチに驚いたデイヴ・ブルーム氏が問いかける。

「伝統と革新の融合だね。ある和紙職人から聞いた言葉なんだけど、現代で伝統だと思われていることも、過去のある時点では革新だった。そして現代の革新も、やがては未来の伝統になる」

「そうですね。だから私も伝統を無視した革新にはあまり関心がないんです。私たちは百年近いジャパニーズウイスキーの歴史に学びながら、独自の挑戦も続けています。そんなチャレンジが10回に1回くらい実を結んで、数百年後にイノベーションと呼ばれるものになっていたら嬉しいですね」

記念ボトルを味わいながら、「ミズナラの影響は明確だけど、かといって他のフレーバーを圧倒する訳でもない。完璧なバランスだね」と賞賛するデイヴ・ブルーム氏。吉川由美氏が答える。

「秩父では、しっかりと発酵をおこなって複雑なフレーバーの素をつくり、それを蒸溜によってさらに凝縮させています。これも熟成の土台となる訳なので、樽熟成はもちろん秩父らしいスピリッツの個性を保つこともまた極めて重要なのです」

変化を恐れず、チャレンジを繰り返すのは若い蒸溜所の特権だと語る吉川由美氏。「今が理想的な状況にあるのだとポジティブに捉え、皆様と一緒に成長を楽しんでいきたい」と笑顔を見せた。

 

日本らしさを表現した繊細なクラフトジン

 

各社が趣向を凝らしたブースを設置したイベント会場。京都蒸溜所のブースでは、町家風のバー空間でクリストフ・ロッシ氏がオリジナルカクテルを提供した。

ジンの専門書も著しているデイヴ・ブルーム氏は、日本唯一のジン専門蒸溜所である京都蒸溜所にも注目している。バーショー記念ボトル「季の美 オールドトムジン」を味わいながら、ヘッドディスティラーのアレックス・デービス氏とも語り合った。

「定番品の『季の美 京都ドライジン』と同じボタニカルに、与那国島の黒糖を加えたのは面白いアイデアだ。舌では重厚なコクを感じさせながら、すっきりとしたフィニッシュがあるね。ジャパニーズジンの日本らしさは、一体どうやって表現しているの?」

英国のジンづくりにも精通するアレックス・デービス氏が、真剣な眼差しで答える。

「幸いなことに、ジャパニーズジンは新しいカテゴリーです。ルールや先入観による期待にも縛られていないので、自分たちが模索しながら開拓していけます。日本に来るまで知らなかった素晴らしい原料にも出会い、11種類のボタニカルを選りすぐりました。これを6つのグループに分け、それぞれ別途に浸漬抽出してから混和するという京都ならではの製法を編み出しています」

京都蒸溜所のブースでは、京都の町家をモチーフにしたバーも出現。木屋町の「レスカモトゥール」から駆けつけた名物バーテンダーのクリストフ・ロッシ氏が腕をふるい、ブースの外には長い行列ができていた。

お酒とバー文化をこよなく愛する来場者たちは、趣向を凝らしたスタイリッシュなブースで思い思いにドリンクとの出会いを楽しんでいる。メインステージでは世界的なバーテンダーのサルバトーレ・カラブレーゼ氏が軽妙なトークでシグネチャーカクテルを披露し、富田晶子氏がフレアバーテンディングの美技を見せると会場全体がヒートアップ。マスタークラスでは、世界的なプロフェッショナルたちが濃密な体験を提供してくれた。

2日間の「東京インターナショナルバーショー」の入場者数は、前回を上回る延べ12,300人。ドリンクへの愛で結ばれたコミュニティの広がりと、バー文化のさらなる深化にこれからも期待しよう。

 

 

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