「縁の下の力持ち」―ウイスキーの研究者【後半/全2回】

May 23, 2015

ウイスキー専門の分析化学会社「タトロック&トムソン」社で世界のウイスキーについて研究するハリー・リフキン博士。後半では科学とウイスキーづくりの関係性、博士の今後のビジョンについて。

【←前半】
ハリー・リフキン博士のウイスキーづくりに関する哲学の中心にあるのは、「スピリッツの生産量を増やすために品質が犠牲になってはならない」「蒸溜に科学的な原理を応用すれば量と質の両方の向上が可能になる」という信念だ。

「かつて、蒸溜所はそれほど清潔ではありませんでした」と彼は言う。
「そのため1970年頃まで、生産量は比較的少なかった。それに、使っていた酵母の多くがビールの醸造を経た後の低品質の酵母でした。根本的に、ウイスキー産業には生化学と微生物学の理解が不足していました」

「科学者たちが近代的な滅菌技術を持ち込み、発酵槽はバッチごとにきちんと清掃され、マッシングの最適温度が研究され、酵母も改善されて清潔なウォッシュバックに入るようになりました。そういったことで生産量が極めて大きく伸び、さらに現代のさまざまなモルティング手法も生産量の莫大な増加につながりました」

2013年まで、「タトロック&トムソン」はファイフ州インバーキーシング港の古い穀物取引所の建物を基盤としていた。しかしその建物が古く手狭になったため、リフキン博士はインバーキーシングから30kmほどの リーブンという町の近くに事業を移すことにした。

その場所を選ぶ上で影響を及ぼした要素のひとつが、リーブン近辺でディアジオ社が多くの事業を統合していることだった。「ディアジオ社は大切な顧客ですから、その近くにいることは理に適っていました」とリフキン博士は言う。

そして「いずれにしても、そこには実験的な蒸溜所を創る計画がありました」と続ける。「鉄鋼の枠組は既に建っていましたから、2階を加えるだけで7,000平方フィートに及ぶ研究所の中核ができました。最新式の機材を揃えた研究所で、ここより多くの機材を持っているのはディアジオ社とシーバス社くらいです。この研究所では、現在11人が働いています」

「タトロック&トムソン」の仕事の大部分は比較的型通りの分析だが、リフキン博士は常に、言わば科学的限界に挑んでいる。
「今は四重極型質量分析装置を購入するところで、非常に微量の汚染物質を検出できるようになります」と彼は言う。
「これまでのところ、この国ではシーバス社しか持っていません。スコッチウイスキーに関して未だに解けていない謎は、有機硫黄化合物は何に起因し何を起こすのか、フェインツ(後溜液)を飲めないものにしている原因は何なのか、ということです。新たな機材で、この謎をさらに深く探ることができるはずです」

「タトロック&トムソン」の事業をインバーキーシングから移すために80万ポンドの費用が発生し、実験的な蒸溜所のプロジェクトは保留中だ。
「この計画に使えそうな古い建物の屋根を新しくしました」とリフキン博士。「それに、タンクを全て設置しましたが、今のところ先に進める状況ではありません」

「しかしこの計画はとてもやりたいですし、いずれはできるだろうと切に願っています。ここは、言わば『レンタル式蒸溜所』になる予定です。アマチュアのディスティラー向けではなく、もう少し生産能力が必要な、あるいは何か違ったことを試したい業界の人々のための蒸溜所です。教育にも使うことになるでしょう」

ハリー・リフキン博士はある意味「裏方」かもしれないが、決して研究所に縛られているわけではない。
「定期的にさまざまな蒸溜所を調査することが大切です」と彼は主張する。
「常に現場と接触していること、とでも言いましょうか。難解すぎる世界にならないためです! 蒸溜所の人々と話し、さらにその蒸溜所から離れたところにいるマネージャーたちと話して、個人的な接触を保つ必要があります」

「仕事の中で私が一番楽しんでいるのもその部分で、もし今の仕事の一部だけをしなければならないとしたら、ここを選ぶでしょうね。この業界に入って30年近くなりますが、素晴らしい業界だと思っています。毎日楽しんで仕事をしてきましたから、このウイスキー業界に何か還元できればと心から願っています」

 

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